都市が跡形もなく破壊されようとしているウクライナ南東部の要衝マリウポリ(4月3日、写真:ロイター/アフロ)

 ロシア軍がウクライナに軍事侵攻を開始してから、ほぼ6週間が経過した。

 ロシア軍とウクライナ軍との間で激しい戦闘が繰り広げられている中、両国の代表団による「和平協議」(注1)が断続的に継続されている。

(注1)現在行われている両国の協議の内容は、明らかに停戦協議でなく和平協議である。日本のメディアは停戦協議としているが、海外のメディアは「peace talks:和平協議」としている。

 ロシア軍の戦い方を見ていると、クラウゼヴィッツがその著書『戦争論』で述べたことをそのままに実践しているように見える。

『戦争論』は、1832年にプロイセンの軍人だったクラウゼヴィッツが、ナポレオン以降の近代戦争というものを初めて体系的に研究し、戦争と政治の関わりを包括的・体系的に論述したものである。

 世界的にも東洋における孫子の兵法に並ぶ古典的な名著である。

「百戦百勝は善の善なるものにあらず。戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり」という孫子の兵法の一節になじんでいる我々は、ロシア軍が民間人を無差別に攻撃したり、都市を徹底的に破壊する様子に違和感を覚える。

 しかし、『戦争論』は、戦争の本質は、敵に我々の意思を押しつけることであるとしている。

 これを確実に達成するためには、敵の抵抗力を奪わなければならない。

 そして、抵抗力の3要素である「戦闘力」と「領土」と「敵の意思」について、戦闘力をもはや再び闘争を続けることができない状態まで壊滅せよ、国土を占領しその国土から新たなる戦闘力が生ずるのを防止せよ、降服を余儀なくさせるほど敵の意思をくじけと、教える。

 ロシア軍はクラウゼヴィッツの教えを実践しているように見える。

 以下、『戦争論』からいくつかの文節を取り上げ、ロシア軍の戦争行為と比較分析する。太字の文章は、『戦争論』(淡 徳次郎氏訳 徳間書店)からの引用である(一部読みやすいように編集)。