■DX企画推進人材のための「ビジネス発想力養成講座」(1)はこちら

 この連載はDX企画、推進人材が身に付けるべきビジネス発想力の養成を目的としている。DXやデジタルビジネスの成功事例には「ビジネスの仕掛け」がうまく使われているが、本連載では、役に立つ9の「ビジネスの仕掛け」をテーマにビジネスアイデアを発想できる考え方、事例などを解説していく。

 今回のテーマは〈8〉パーパス(Purpose)経営である。事業経営文脈でのパーパスとは「企業の存在意義、ぶれない志などの経営指針」を意味する。現代の消費者は商品だけでなく、それを提供する「企業の在り方に共感できるか」も含めて判断する。だから、パーパス経営が注目される。

 例えば、あなたはネットのニュースサイトを見ている。そこで、マイクロプラスチック(海洋に出たプラスチックのごみが微小化したもの)が、多くの海洋生物に悪影響を与えていることを知り、心が乱れる。その後、落ち着いたので、服を買うためにECサイトを物色する。すると、あるD2Cサイトが気になった。

 そのサイトには「当社の衣料品には自然素材しか使わない。廃棄しても無害なものに分解される」「燃やしてもCO2は多く出さない」などと書いてある。あなたは企業理念のページに飛ぶ。そこには、多くの写真や動画がある。どれも地球環境に優しい。人類だけでなく、生物、植物にも良さそうだ。

 あなたはその後、商品のページに遷移する。シンプルで地味だが、素材は素晴らしい。これならマイクロプラスチック問題に加担しなくて済む。値段は高いが、それはもはや問題ではない。あなたは「購入」ボタンをクリックする・・・。これが消費者から見た「パーパス経営」である。

 パーパス経営とは、一般に企業が、自社の存在意義(強い経営理念)を消費者や社会に共感されるものに設定し、それに企業活動を一致させて、消費者や社会全体に自社の商品やサービスを「好ましいもの」として受容されることを期待する「ビジネスの仕掛け」である。

 マイクロプラスチックの事例では、パーパスが社会課題解決(環境問題)に寄っているが、既存企業ではこれまでの経営理念との関係があり、全く新しいパーパスの設定は難しい。そこで、多くの既存企業は、従来の企業理念を元に「パーパス再定義」を行い、ビジネス拡大を目指す。この事例を説明しよう。

売り上げが思うように伸びない状況に「ビール製造会社」は・・・

 あるビール製造会社が、世の中のビール消費の落ち込みに困って、売り上げを伸ばすために手を打ちたいと考えた。発泡酒や第三のビールを作ったが、ビール好きの間でカニバリズム(食い合い)が起こることもあり、会社全体の売り上げは思うようには伸びなかった。

 ビール会社の社長は、どうすればビールを買うお客が増えるかを考えた。しかし、良いアイデアは思い付かなかった。そこで、アイデアを社員に考えさせることにした。指名された社員は2人いた。1人はビール好きの営業社員Aさん、もう1人は最近、発酵食品会社から中途入社したBさんだった。

 Aさんは聞かれるやいなや、『ビールの種類を増やすことが必要。香りが良いビール、味が良いビール、健康に配慮したビール、美容に良いビール、痛風になりにくいビールなど、人の嗜好に合わせたビールを作るべきである』と言った。

 一方、Bさんは『ビールを作るための酵母は健康や美容に良い。それを利用した消費者が喜ぶ商品を作ればよい。ビールだけでなく、消費者の健康と美容を支援する会社になればよい』と言い、会社の存在意義を再定義すること、ビールを売るのではなく、人を健康に、幸せにすべきだと社長に迫った。

 以降、この会社は消費者や社会に何を提供するかを社員全員で考えた。その結果、ビール製造で培った酵母技術を生かした商品での消費者の健康維持や、それによる社会の活性化を会社の存在意義として定義。社会に情報発信しながら、多くの健康食品やサプリメントを販売することで成長し続けたという。

 企業が「消費者軽視」で事業を行えば、消費者はそれをSNSなどで簡単に知り得ることができ、逆に、消費者本位で事業を行えば、SNSですぐに拡散され、認知されるようになっている。情報がすぐに伝わる時代には「パーパスの再定義」を活用することでビジネスを大きくできるのだ。

 では、どのように「パーパス経営」の成功ケースを作ればよいのだろうか。そのために筆者は「パーパス経営のチェックリスト」を使っている。これを使うことで、成功する可能性が高いパーパス経営に基づいたビジネス拡大を考えることができる。