大統領選投票日の前日となる3月8日、最後の遊説を行う李在明候補(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

(崔 碩栄:ノンフィクション・ライター)

 大統領選挙を目前に控えた韓国で、与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)候補が国民から猛批判を浴びる事態となっている。

 3月4日、韓国で大きな山火事が発生した。山火事は江原道三陟(サムチョク)市から50kmほど南にある慶尚北道蔚珍(ウルジン)郡にわたる広範囲を焼つくした。その被災地域は16700ヘクタールほどに及ぶ。日本で例えるなら神奈川県の川崎市よりも広い範囲である。この山火事以外にも慶尚南道の別の地域、あるいはソウル付近でも大小の山火事が起き、多くの人々を不安に陥れている。

 山火事の勢いに危険を察知した政府はいち早く非常事態を宣言し、公務員、軍隊を動員し火災に鎮圧に乗り出したが、乾燥した強い風の影響を受け4日が過ぎた3月8日現在も鎮火できていない状況だ。

3月4日、韓国の三陟で激しく燃える山火事(写真:AP/アフロ)

飛び交うデマや根拠なき推測

 突然の災難に見舞われた人々は、鎮火の見通しも立たないような状況下で不安を覚え、恐怖を感じずには居られないだろう。このような状況下で注意しなければならないのは冷静さを失うことだ。デマや嘘が広がりやすいのはまさにこのような状況だからである。3月9日の大統領選挙を目前に控えた時期に起きたこの山火事についても、根拠のない推測や噂がインターネット上で語られ、広がっている。

 偶然にも山火事が発生した江原道、慶尚北道、そして慶尚南道地域は与党李在明候補よりも野党尹錫悦候補が約2倍もの高支持率を示している地域だ。これを根拠として、誰かが「老人や弱者たちが投票所に行けないようにしようとして与党支持者が放火したんじゃないか?」という疑惑を提起する一方で、与党支持者が多く利用するインターネットコミュニティでは「(与党劣勢地域で)山火事が続いたら投票率が下がるかも?」といった質問が上げられたりした。

 もちろん、これを上げた当人は軽い想像、あるいはきつめの冗談のつもりだろう。問題は、災害時には、今まさに災難に直面している人は、これらの妄想やいたずらを真に受けてしまう可能性がある、ということだ。

 ここで出てきたのが、慰安婦支援団体「挺対協」(韓国挺身隊問題対策協議会)の代表を務めてきたことで知られた尹美香議員が山火事発生後に自身のSNSに載せた発言である。

「自然が人間よりもはるかに素晴らしい仕事をする」

 さすがにこの発言は炎上し、非難の声が高まると尹氏はこの発言は削除した。