2019年3月、トーマス・バッハIOC会長と親しげに話す于再清IOC副会長(写真:AP/アフロ)

 北京冬季オリンピックの開幕(2月4日)を一週間近く先に控えた1月25日午前7時過ぎ、氷点下7度の北京中心部の天安門広場に、バスが次々に停まった。中から屈強な若者たち100人以上が出て来て、そそくさと天安門を背にして、横一線に整列した。彼らは、来週から本番を迎える中国のオリンピック代表選手団だ。

 午前7時26分、中国国家博物館の方角から朝日が昇ると、人民解放軍の儀仗隊が、巨大な五星紅旗(中国国旗)を空に投げ打ち、高らかに掲揚した。その国旗掲揚儀式の様子を、若者たちは白い息を吐きながら、直立不動で見守る。

「祖国のために、行くぞ、行くぞ、行くぞ!」

 続いて、前回の平昌冬季オリンピックで唯一の金メダリストとなった武大靖(ぶ・だいせい)選手が音頭を取って、100人以上の若者たちが一斉に声を揃えて、叫び声を上げた。

祖国のために、行くぞ、行くぞ、行くぞ!(為了祖国、冲冲冲!)
人民を裏切らぬよう、やるぞ、やるぞ、やるぞ!(不負人民、拼拼拼!)
最高指導者(習近平総書記)に報いるため、捨て身で進むぞ!(報答領袖、豁出去!)
最後までトップを争い、恐れ知らずだ!(永争第一、不認慫!)
(習近平)総書記について、一緒に未来に向かう!(跟着総書記、一起向未来!)
中国は必勝、祖国万歳!(中国必勝、祖国万歳!)
中国の碧き血よ、頑張れ、頑張れ!(中国碧血、加油、加油!)

 中国代表選手団は、「天安門の宣誓」を終えると、再びバスに乗り込み、「閉環管理」(バブル方式の管理)のオリンピック選手村に向かったのだった。

 私は、中国メディアが伝えるこの映像を見ていて、胸のわだかまりを禁じ得なかった。中国のオリンピック選手が全力を出して頑張るのが、なぜ習近平総書記に報いるため捨て身で進むことになるのだろうか? また、「一緒に未来に向かおう!」というスローガンは、今回の北京冬季オリンピック・パラリンピックのキャッチフレーズだが、なぜ「(習近平)総書記について」という枕詞が必要なのだろうか? そもそもオリンピック憲章では、スポーツを政治に結びつけることを禁じているのではなかったか。ましてや個人崇拝に結びつけるとは何事だろうか。