中国の深海調査船(写真:新華社/アフロ)

 2020年、小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」から、生命の起源解明のための試料として砂を無事に持ち帰ったことは世界中のニュースとなった。地球の外の「宇宙」の話はたびたびニュースに上がるが、一方で、より身近な存在である地球の中の「深海」「超深海」の話を耳にする機会は多くはない。

 最近では、深海・超深海の調査技術が進歩し、生命の起源を知る手がかりが我々の住む星、地球の深海でも見つかっている。今、学術の世界では「深海」「超深海」に熱い目線が注がれている。

 深海でも確認された環境汚染や、特有の進化をしてきた海洋生物など、深海・超深海の世界について、『なぞとき 深海1万メートル 暗黒の「超深海」で起こっていること』(講談社)を上梓した蒲生俊敬氏(東京大学名誉教授・理学博士)と窪川かおる氏(帝京大学先端総合研究機構客員教授・理学博士)に話を聞いた。(聞き手:関 瑶子、シード・プランニング研究員)

※記事の最後に蒲生俊敬氏と窪川かおる氏の動画インタビューが掲載されていますので、是非ご覧下さい。

──1万メートルを超える超深海が人間由来の物質に汚染されている、という衝撃の事実が本書にありました。今後、深海・超深海の環境を守るために私たちが日常生活でできることはありますか。

蒲生俊敬氏(以下、蒲生):海は上から下までつながっているので、私たちが一度海に流したものは、すぐに分解されるか回収しない限り、海の底へ沈み、留まり続けることになります。

 そのようなイメージを強く抱いて、一人ひとりがごみを処理する時に注意し、人工的な物質を海に流さないように心がけることが大事です。既にマリアナ海溝の海底1万メートルに住む深海生物が、人工物で汚染されているという驚愕の論文が発表されています。

──「日本は超深海とのゆかりが深いが、日本で超深海が話題に上がることはあまりない」と指摘されています。海洋を専門とされる両先生は、このことについてどのように感じていますか。

蒲生:超深海が話題になることが少ないのは非常に残念です。深海についての一般的なリテラシーの普及がまだ十分ではありません。深海のことを知るきっかけになってほしいという願いを込めて、本書を出版しました。深海・超深海でどのようなことが起こっているのか。それを海の専門家ではない一般の人たちにも理解してもらい、我々と一緒に研究の成果を楽しんでいただきたいと考えています。

 今までにもダイオウイカやチョウチンアンコウのような面白い生物は映像で紹介されてきましたが、深海・超深海全体についての具体的なイメージは紹介されてきませんでした。それを補う内容を本書に書いています。

 当面、日本で最新鋭の潜水船がすぐ開発されることがなかったとしても、米国の「リミティング・ファクター」号や中国の「奮闘者号」などの海外のフルデプス潜水船がどんな成果を上げているか、そのようなニュースを頻繁に紹介してもらえるようになるといいですね。

マリアナ海溝で見つかった新種の発光クラゲ(提供:NOAA Office of Ocean Exploration and Research/AP/アフロ)

窪川かおる氏(以下、窪川):私も研究者として、一般の方々に向けて研究の成果を発信しなければならないと感じています。

 日本人は、お寿司などの食文化を持つ上に、水族館の数が世界一という背景もあり、海の生き物に対して親しみを持っています。海洋生物が生息する海の中にも、関心を広げていただきたいです。海の中には山や谷、秘境がありバラエティに富んでいます。また、国内外でどんな海洋の研究や冒険が進められているかにも目を向けてほしいですね。