CES 2022で初利用になったLVCCのWest会場。自動運転やEVなどのメイン会場になったが、コロナ禍の開催で欧米や日本の常連企業がこぞって出展を見合わせ、寂しいデビューとなった(筆者撮影)

(朝岡 崇史:ディライトデザイン代表取締役、法政大学大学院客員教授)

 オミクロン株の流行急拡大の懸念の中、2年ぶりにリアル(in-person)で開催された世界最大規模の民生技術の祭典「CES」(シー・イー・エス)。「CES 2022」は1月3~4日のメディアデー(プレス対象)の後を受けて1月5日に正式開幕し、そして1月7日には予定よりも会期を1日前倒しして閉幕した。

 主催者のCTA(全米民生技術協会)の発表によると、CES 2022の期間中の来場者は4万人(うちメディア関係者が1800人)、出展社は2300社だったという。この水準はコロナ禍前のCESの実績と比べると、来場者は4分の1以下、出展社は2分の1程度に過ぎない。

 1月3日に実施されたCTAの記者会見「CES 2022 Tech Trends to Watch」では、デジタルヘルスの拡大やスペーステックの参入など、最近のCESの「軍事以外の最新テックなら何でもあり」といった世界観のさらなる拡大への期待が表明されてはいた(下のスライド参照)。しかしながら現実にはCES常連企業の中でもコロナ禍を理由にCESへの参加自体を見合わせたり、直前にリアルの参加をキャンセルしたりした顔ぶれも多かったのが事実。例年のように、5G、自動運転、IoT・・・のようなカテゴリーごとに分析して今年のCESのトレンドを語るのが無理そうな状況であることは最初から何となく想定できていたことだった。

CTAの記者会見で提示されたCES 2022の見どころ上位(出典:「CES 2022 Tech Trends to Watch」)

 一方で筆者が現地ラスベガスでCES 2022を丸4日間取材した体験(1日平均2万歩以上を歩く)から言えば、来場者や出展社の少なさを目の当たりにしたのは主にLVCCやデジタルヘルス、スマートホームなどの展示が集中する(はずの)サンズホテル2階のメイン会場だけで、逆に基調講演、記者発表、スタートアップ(起業3年以内)の展示が集まるイベントスペースのユーレカパーク、関連イベントなどは企業・来場者ともに熱量が高く、内容的にもコロナ禍の時期の開催ならではの見どころや考えさせられるポイントも多かった。

 したがって今年(2022年)のCES 2022のレポートに関しては、例年のようにインダストリー(業界)ごとのタテ割りの分析ではなく、基調講演、記者発表、展示、関連イベントという具合にCESを活動単位でヨコに輪切りにして、今、目の前で起きていることの本質に少しでも迫ってみたいと思う。

 レポートは3回にわけてお届けする。今回は<基調講演>を中心にレポートし、第2回は<記者会見、展示>、第3回では関連イベントの中でも筆者が特に注目して追いかけてきた<自動運転レーシングカーのレース・Indy Autonomous Challenge @ CES>についてご報告する。

 それでは、CES 2022の基調講演から見ていこう。

基調講演1:秀逸だったアボットのプレゼンテーション

 CESにおいて基調講演の位置付けは極めて重要だ。インダストリーを代表する企業のリーダーが、自らの言葉で理念やビジョンを熱く語り、そしてその熱量をなるべく多くの聴衆(記者や来場者)と共有する。だからこそ、例年、基調講演は会期初日の朝を皮切りに、ベネチアンホテル5階のパラッツォ・ボールルーム(舞踏会場)と呼ばれる3000人収容の大ホールで1回1時間をかけて行われるのだ(今回は感染対策で1500人程度に制限)。

 筆者はいくつもの企業トップの基調講演を聴いてきて、CESで聴衆の賞賛を受けるプレゼンテーションには「共通の法則」があることがわかってきた。その法則とは以下の通りである。