金正日氏は映画「タイタニック」の不正コピーを持ち込むために飛行機を引き返させた(提供:ロイター/アフロ)

 北朝鮮には「100号事業」と呼ばれる事業がある。これは、外国映画を不正に複製し、北朝鮮に密搬入する事業で、映画マニアだった金正日氏の映画に対する愛情から始まったものだ。北朝鮮の税関も絶対に検閲できない、神聖不可侵な事業である。どのようにして外国映画を北朝鮮に密搬入するのだろうか。

(過去分は以下をご覧ください)
◎「北朝鮮25時」(https://jbpress.ismedia.jp/search?fulltext=%E9%83%AD+%E6%96%87%E5%AE%8C%EF%BC%9A)

(郭 文完:大韓フィルム映画製作社代表)

 北朝鮮中央党宣伝部に所属する映画関連部署に、「15号映画文献室」がある。ここは労働党の映画倉庫を管理・運営している部署で、北朝鮮で作られた映画に加えて、外国から不正に持ち込んだ映画も保管している。100号事業の成果物を保管する倉庫のようなものである。

 15号映画文献室は、ロシア・モスクワの在ロシア北朝鮮大使館に100号事業に関連した人員を二人常駐させている。15号文献室と朝鮮フィルム現像所の職員だ。大使館での名称は「映画代表部」で、15号文献室から派遣された職員が代表(以下、映画代表)を務めている。

 映画代表が何をしているのかというと、ロシアで入手できる各国映画の選定作業だ。金正日時代の映画代表が映画を選定する基準は、金正日氏の嗜好に合っているかどうかだった。

 映画マニアの金正日氏が好きなジャンル、あるいは金正日氏が状況や雰囲気に合わせて気分転換できるような映画、政策的に参考にできる内容を含んでいる映画などを選定する。金正日氏の嗜好を考慮しないで持ち込むと、取り返しがつかない運命が待ち受ける。

「最近、面白い映画が入ってきたか」と尋ねた金正日氏に対して、15号映画文献室室長が米国のSF映画を見せたところ、15号映画文献室の室長とモスクワの映画代表が同時に亡くなったことがある。外国映画の選定作業には、命がかかっているのだ。