新型コロナウイルス感染症をめぐっては、その対策を強化すればするほど個人の権利や自由が制限されるというジレンマがある。海外で進むワクチン接種義務化は、日本では法的に可能なのか? 『コロナの憲法学』著者の大林啓吾(千葉大学教授)に讃井將満医師(自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長)が聞く(全3回の第2回)。テーマはワクチン接種。連載「実録・新型コロナウイルス集中治療の現場から」の第75回。

讃井 引き続き、新型コロナウイルス感染症に対する施策を法的観点から考えるため、憲法学者の大林啓吾千葉大学教授にお話を伺います。大林教授は、「憲法とリスク」を研究テーマの1つとされ、その中で公衆衛生の問題に取り組んでいらっしゃいます。

 前回は、「なぜ日本はロックダウンをできなかったのか」についてお話ししていただきました。そのロックダウン同様、新型コロナワクチンの接種義務化やワクチンパスポートには、個人の権利や自由を制限する側面があります。

 現状、日本ではワクチン接種は任意ですが、海外では接種義務化が進んでいます(※)。

(※)海外の接種義務化のおもな動き
・公的機関の職員に対してワクチン接種を義務付けてきた米国ニューヨーク市では、12月27日からすべての民間企業の従業員にワクチン接種を義務化。
・米国バイデン政権は、来年1月4日から従業員が100人以上の民間企業、医療従事者、連邦政府機関の業務を請け負う業者などに対して、ワクチン接種(もしくは、少なくとも週に1回の検査)を義務化。
・ドイツ政府は、来年2月からワクチン接種の義務化を目指す方針。

 欧米諸国のロックダウンについては、「国や地方自治体レベルで法律や条例に緊急事態条項やロックダウンに関する規定があって、それに基づいて行うという法の支配の原則が貫かれている」とのことですが、ワクチンの接種義務化についてもやはり規定があって、それに基づいているのでしょうか?

大林啓吾(おおばやし・けいご)
千葉大学大学院専門法務研究科教授。憲法の観点から公衆衛生の問題を研究し、著書に『コロナの憲法学』、『感染症と憲法』、『憲法とリスク』などがある。