写真はイメージです(出所:Pixabay)

 日本の漁業が、東シナ海から追い払われようとしている。日中間では東シナ海での漁業管理に関する条約である新「日中漁業協定」が結ばれているが、漁業問題と領海問題を切り離す意図があったこの協定は、中国漁船の尖閣諸島周辺での自由操業に根拠を与えてしまっていた。いま東シナ海で何が起きているのか? 日本人が知らない厳しい現実を、漁業経済学者・佐々木貴文氏が解説する。(JBpress)

(*)本稿は『東シナ海 漁民たちの国境紛争』(佐々木 貴文著、角川新書)から一部を抜粋・再編集したものです。

東シナ海には「200カイリ」時代は到来しなかった

 1976年から翌年にかけて、アメリカ・ソ連という超大国が、排他的な漁業資源の利用が可能な200カイリ漁業専管水域を設定し、日本が、そして世界がこれに追随した。日本は北方水域で漁場が重複していたソ連への対策として、「漁業水域に関する暫定措置法」(1977年)を制定し、200カイリ水域を主張する。

 しかし、漁業専管水域の設定に慎重であった中国や韓国には同法を適用せず、従来の2国間協定にもとづいて利害調整を図ろうとした。結果、東シナ海や日本海には、200カイリ時代は到来しなかった。

 東シナ海では、漁業専管水域の設定が世界の潮流となるなかでさえ、公海自由の原則を踏まえた旧「日中漁業協定」が機能し、漁業取締りは、対象となる漁船の船籍がある国が担当するという、旗国主義で漁業秩序が維持されることとなる。