1908年にアメリカでフォード モデルT(T型フォード)が発売され、大ヒットした。それまで馬車が走っていた道路は自動車で埋め尽くされていき、自動車に使われたテクノロジーが社会を変えた。株式会社アイ・ティ・アール会長 エグゼクティブ・アナリストの内山悟志氏は、現在の世界でも同様のことが起きていると語る。日本企業におけるDXの実践施策の具体像について聞いた。

※本コンテンツは、2021年11月24日に開催されたJBpress主催「第11回 DXフォーラム」の特別講演Ⅰ「いまさら聞けないDX実践施策~経営者にもわかるデジタル化の本質と事例~」の内容を採録したものです。

デジタル化は「手段」から「前提」へ

 アイ・ティ・アール会長でエグゼクティブ・アナリストの内山氏は、近年巻き起こっている変化について、次のように述べる。

「今、世界で起きている変化の特徴は、100年前の変化よりもスピードが著しく速いことです。米国世帯の半数まで自動車が普及するのに約80年かかりましたが、テレビは30年、インターネットは20年、スマートフォンに至ってはたった5年です。これまでの10年でも大きく様変わりしましたが、これからの10年の変化がさらに大きくなるのは確実でしょう」

 経済産業省「DX推進ガイドライン」(2018年12月)によれば、DXとは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」である。

「この定義に従えば、デジタルはあくまで手段。さらにチェンジ(Change)ではなくトランスフォーメーション(大きな変革)が肝となります。では、その対象が何なのか。それは『会社』『ビジネス』『製品・サービス』『業務プロセス』『組織・制度』『文化・風土』であり、すなわち会社丸ごとの変革です。さらにその目的は『競争上の優位性を確立・維持すること』と位置付けられています」

 しかし、内山氏は「この定義自体は間違っていない」と前置きした上で、「コロナ禍もあり、この数年の間、デジタル化はさらに拡大・進展し、付け加えるべきことが出てきた」と話す。

「今、述べたように、これまでのデジタルはあくまで『手段』であり、DXとは『Transform by Digital』のことであり、企業・組織・ビジネス・社会をデジタル“で”変革することでした。しかし、これからはデジタルを『前提』と捉えるべきではないでしょうか。すなわち、DXとは『Transform to Digital』であり、企業・組織・ビジネス・社会をデジタル“に”変革することになると考えています」

 その上でDXの全体像をスライドのように示し、こう話す。

「DXの実践を行いつつ同時に環境整備も行う。そうでなければいくらデジタル技術を導入しプロジェクトを走らせたとしても、途中で行き詰まってしまったり、広がっていかなかったり、後戻りしてしまったりするでしょう。実践と環境整備の歩調を合わせ、同時並行的に進めていく必要があります」