バイデン大統領は民主主義サミットを主催した(12月9日、写真:ロイター/アフロ)

 英南西部コーンウォールで2021年6月11~13日に主要7カ国首脳会議(G7サミット)が開催された。

 サミットに先立ち行われた10日の米英首脳会議で、ジョー・バイデン米大統領とボリス・ジョンソン英首相は、法の支配など民主主義の基礎となる価値の順守をうたった「新大西洋憲章」に合意・署名した。

 これにより、第2次大戦後の国際秩序を構想した旧憲章を80年ぶりに刷新し、新たに中国やロシアが代表する専制主義への対抗軸を打ち出した。

 旧憲章はファシズムと戦う諸国の支持を受けて、その共同指針としての役割を担うこととなった。新憲章も8項目からなり、民主主義の価値の擁護、領土保全の尊重などを明記した。

 米政府高官は両憲章の共通点を「民主主義がベストな統治形態だと示すことだ」と語る。

 さて、バイデン大統領は、就任後初めてとなる記者会見(2021年3月25日)で、中国との関係について「民主主義と専制主義の闘いだ」と位置づけたうえで、中国との競争を制することに力を注ぐと強調した。

 ちなみに、民主主義の対抗軸とされる言葉には、専制主義(absolutism)や権威主義(authoritarianism)などがあるが、本稿ではこうした個別の言葉の定義にはこだわらず相互交換用語として自由に使用している。

 ところで、ドナルド・トランプ政権時代に端を発した米中貿易戦争は、報復関税の応酬に続き、米中双方の輸出管理規制に発展するなど先鋭化した。

 バイデン政権誕生後、米政府は、ウイグルの人権問題や香港・台湾を巡る情勢への懸念表明、力による現状変更の試みへの断固とした反対など、単なる通商政策上の対立から、自由・民主主義・法に基づく支配など「普遍的な価値観を巡る対立」へと激化している。

 これに対し中国は、「米国には米国流の民主主義があり、中国には中国流の民主主義がある」「米国が自国流の民主主義を他国に押しつけるのをやめろ」と反発している(3月18日、米中外交トップ会談での楊氏発言)。

 また、最近、中国外務省は、「アメリカの民主主義の状況」と題する文書を公表した。

 この中で米国の民主主義は、「金権政治」に成り下がり、少数のエリートによって統治されていると指摘したほか、人種差別の問題も根深く、貧富の格差が広がっているなどと、強調している。

 今や、中国は、西側諸国からの批判に真っ向から反論するとともに、欧米諸国の揚げ足を取って反転攻勢に出ている。

 さて、旧憲章は、「連合国 vs. 枢軸国」の対立の構図から生まれたものである。

 名指しこそしていないが、明らかに日独伊3カ国に敵対・対抗して作られたものである。

 旧憲章はその後、第2次世界大戦開戦直後の1942年1月1日、米英に加え、ソ連と中華民国の4カ国による「連合国共同宣言」(“Declaration by the United Nations”)として、「大西洋憲章」の8つの条項がワシントンD.C.で合意された。

 さらに翌日、22カ国が署名に加わり、これが第2次世界大戦における連合国を構成する正式な合意文書となった。

 新憲章も、「民主主義国vs.権威主義国」の対立構造から生まれたものである。

 新憲章が今後、どの様な道を辿るかは分からない。筆者としては、民主主義国の勝利で終わることを願っている。

 それには米国の本気度がカギとなる。日本としては、米中の間で漂流しないように米国の本気度を見誤らないことが重要であろう。

 以下、初めに新大西洋憲章の骨子について述べ、次に新大西洋憲章が発出された背景について述べ、最後に「新大西洋憲章」が影響したと見られる出来事について述べる。