岸田文雄首相(写真:AP/アフロ)

(岸 博幸:慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)

 オミクロン株が世間を騒がせていますが、岸田政権はそのオミクロン株への対応も含め、コロナに関して政策的にはおかしな対応を連発しています。オミクロン株についてまだ分からないことが多いため、メディアの関心もオミクロン株自体にばかり集中している感がありますが、政権のおかしな対応も厳しく指弾すべきではないでしょうか。この一週間だけでも、岸田政権のコロナ対応については4つの問題点を指摘できるのです。

全外国人の新規入国を1カ月も停止

 1つ目は、オミクロン株への対応として最初に発表した、全外国人の新規入国の1カ月に及ぶ原則停止です(11月29日に発表され、翌日から適用)。この対応については、“最悪を想定した対応”として評価するメディアや評論家が多かったですが、私はまったく評価できないと思っています。

 というのは、この対応は世界で最も厳しい対応であるにもかかわらず、それが必要な根拠や蓋然性が一切説明されないまま決定・実行されたからです。

 実際、諸外国のオミクロン株への対応を見ると、欧米ではすべての国が対象国を限定してその国からの渡航制限や入国禁止としており、イスラエルのみが全外国人の入国を禁止していますが、それでも期間は14日間です。

 もちろん、オミクロン株についての情報が少ない中では、この決定の明確な根拠を示すことは困難でしょう。しかし、今回のように経済や国民生活に大きな悪影響を生じる政策決定をするに当たって、“最悪を想定した対応”と一言で済ませるのはあまりに無責任と思います。

 というのは、政府が十分な説明がないままで過剰な対応をすると、“そんなに大変な事態なのか”と国民の側の猜疑心が高まり、慎重な人ほど外食や旅行を控えるなど回復しつつあった経済をまた冷え込ませるという副作用が生じるからです。実際、フィギュアのGPファイナルやボクシングのビッグマッチが中止になるなど実害も出ています。技能実習生の来日も遅れることになるので、その労働力を当て込んでいた企業にも打撃となるはずです。

 総理は会見で「状況が分からないのに岸田は慎重すぎるという批判については、私が全て負う覚悟でやってまいります」という説明をしていますが、このような情緒的な説明は意味がありません。国民の恐怖心を煽らないためにも、全外国人を対象に1カ月という決定の妥当性や蓋然性に関する説得的な説明が必要だったのではないでしょうか。実際、WHOもこの対応は理解困難と批判しています。

(参考:外部リンク)https://www.sankei.com/article/20211202-OZGL3NLULFJ5RIFUMVGXQV6OO4/