(英フィナンシャル・タイムズ紙 2021年11月23日付)

ミシェル・バルニエ氏にいったい何が起きたのだろうか。
高貴な雰囲気が漂うフランスの政治家で、ブレグジット(英国の欧州連合=EU=離脱)にあたってEU側の首席交渉官を務めた同氏は、EUは中核の原則――加盟国の国内法に対するEU法の優位性や移動の自由など――から逸脱してはいけないと断固主張してその名を知られるようになった。
バルニエ氏の変節が意味すること
ブレグジットは実行に移され、バルニエ氏も次のステージに進んだ。
現在はフランスの大統領選挙に立候補しており、かつて自らが拒絶したアイデアを数多く採り入れるようになっている。
例えば、EU法の優位性について疑問を呈し、移民については最長5年間の受け入れ停止を求めている。「欧州の理想」については、ドイツがEU内で強くなりすぎていると警鐘を鳴らすに至っている。
これまでの主張を180度転換するこの不思議な展開については、2つの説明ができるだろう。
第1の説明は、元欧州委員のバルニエ氏がブレグジットの交渉を振り返って深く考えた結果、英国の離脱派の主張には一理あると結論づけたというものだ。
そして第2の説明は、フランス大統領になりたい自分の野心について深く考えた結果、権力の座に至る最短ルートは右に大きく旋回し、自分自身の理念をさっさと転換することであると結論づけたというものだ。
本当に腕のいい弁護士なら、この2人のバルニエ氏による主張が矛盾なく聞こえるように話をまとめられるかもしれない。
例えば、移民受け入れの一時停止を求めているが、これはEU域外からの移民だけが対象だ。