韓国・ソウルの繁華街、明洞の街並み(資料写真、出所:Pixabay)

(藤原 修平:在韓ジャーナリスト)

 爽快な一冊と言うほかはない。『帰属財産研究』(李大根著、文藝春秋、2021年10月発行)は、それまで視界を遮っていた濃霧がすっかり消えたような読後感だった。

帰属財産研究 韓国に埋もれた「日本資産」の真実』(李大根著・金光英実訳・黒田勝弘監修、文藝春秋)

 終戦により朝鮮半島から引き揚げた日本人が現地に残した莫大な「帰属財産」は、その後、十分に生かされなかった。これまで誰も語ろうとしなかったその真実を、沈着冷静に剣を振り下ろすかのような鋭利な分析力で明快に解き明かしている。

 韓国で暮らしているとそんなことは小耳にも挟まない。それどころか、「私たちは解放後、本当に貧しかった」という話が、神話のように延々と語り継がれ、だから日本支配が悪かったんだ、と言うのだ。

潤沢だったはずの日本資産

 著者の歴史学者、李大根(イ・デグン)が本書に取り掛かろうとしたのは、韓国戦後史のこうした固定観念に対して疑問を抱いたからだ。まずこの著書では、日本の台湾・朝鮮統治の特殊性が指摘される。