中国政府によるウイグル族への弾圧、人権侵害、ジェノサイドをやめるよう訴えるウイグル族の人々(4月22日ロンドンで、写真:Abaca/アフロ)

 2021年11月15日の報道番組に、10日に発足した第2次岸田文雄内閣において新設された「国際人権問題担当」の首相補佐官に任命された中谷元・元防衛大臣がゲストとして出演した。

 現下の最大の国際人権問題は、中国の新疆ウイグル自治区に住むウイグル族への人権侵害である。

 岸田首相が、「国際人権問題担当補佐官」を新設したのも、中国による新疆ウイグル自治区での人権弾圧が念頭にあったと思われる。

 中谷氏は、「人権外交を超党派で考える議員連盟」(以下、議連)の共同会長を務めており、ウイグル問題に関し、人権問題に関与した外国の人物や団体に制裁を科すことが可能な日本版マグニツキー法(人権侵害制裁法)(詳細は後述する)の制定を目指していた。

 2021年4月6日の同議連の設立総会の様子をメディアは、次のように報道していた。

「『米国や英国、カナダなどが足並みをそろえて人権弾圧を止めようとしているのに、日本は加わる選択肢すら十分ではない。制裁できる仕組みも必要だ』と、国会内で開かれた同議連の設立総会で、共同会長に就いた中谷元・元防衛相が訴えた」

「総会では、外国で起きた深刻な人権侵害に対し、政府が資産凍結などの制裁を科すことのできる『日本版マグニツキー法』の成立へ検討を進める方針を決めた」

 ところが、11月15日の報道番組に出演した中谷氏は、日本版マグニツキー法の制定ついては、これから各省と協議し、慎重に検討したいと大きく後退した。

 同番組にコメンテーターとして出演していた読売新聞の飯塚恵子編集委員は、中谷氏の豹変ぶりに驚いた様子であった。

 そして、飯塚氏は日本版マグニツキー法の制定に慎重になった中谷氏に対して、なぜ、考えが変わったのかと何度か質問したが、納得の得られる回答は得られなかった。

 筆者も飯塚氏と同じように驚いた。筆者の推測であるが、中谷氏は既に各省庁、特に外務省の官僚に篭絡されたように見受けられた。

 中谷氏の今回の豹変ぶりは同議連の多くの仲間を失望させたと思う。

 同議連の総会には衆参53人の国会議員が参加した。日中関係を重視する立場からこれまで議連への参加に慎重だった公明、共産両党からも1人ずつ加わった。

 これらの多くの仲間は中谷氏の日本版マグニツキー法を制定したいという「信念」を信じて、同氏の下に集まったものと思う。

 さて、人権は人類の普遍的価値であり、一国の内政問題にとどまるものではなく、国際社会で解決すべき問題であるとする認識が広がっている。

 2021年3月、欧州連合(EU)と米国、英国、カナダが、歩調を合わせる形で、中国がウイグル族の人権を侵害しているとして、中国当局者らへの制裁を発動した。

 しかし、日本は、「人権問題を理由に制裁をする法律がない」というのが理由で、何ら行動を起こしていない。

 それならば法律を作ればいいのではないかと言うのが同議連の発足の理由であった。

 以下、本稿では、初めに新疆ウイグル問題とウイグル族の弾圧について述べ、次に、ウイグル人への人権侵害の実態について述べ、最後に、マグニツキー法と日本版マグニツキー法の必要性について述べる。