新型コロナの感染拡大で中国との国境を封鎖したため、紙幣を印刷するためのインクなどが手に入らなくなった(写真:ロイター/アフロ)

 北朝鮮から入った緊急ニュースをお伝えすることにしよう。

 10月20日頃、平壌で5億ウォン(約6345万円)規模の“偽札”をつくり、流通させた事件が摘発された。北朝鮮では9月に新しい銀行券が導入されたばかりだったが、当局は新しい銀行券の使用を中止し、回収を余儀なくされている。銀行券を偽造した犯罪組織は平壌だけでなく、地方にまで勢力を伸ばしており、捜査が全国規模に拡大しているという。

 北朝鮮では、過去にもドルの偽造や外貨兌換券の偽造事件が起きたが、今回の銀行券偽造事件は、金額的にも、銀行券を流通させる手法においても、過去最大級の大きさとなる組織犯罪だ。

 なお、冒頭で「偽札」「銀行券」と書いたが、今回摘発された偽札はいわゆる紙幣ではなく、紙幣と同等の価値がある「トンピョ」と呼ばれる金券である。この金券は、2021年8月から印刷が始まり、9月末から市内に供給され始めた。

 紙幣があるのになぜ金券があるのかといぶかしがる方も多いだろう。今回の金券導入は、北朝鮮経済の悪化によって国家機関と国営企業の資金繰りが悪化し、物資の購入代金や給与の支給が困難な状態に陥ったための苦肉の策である。

 日本のような国は、国家の必要に応じて紙幣を印刷することができる。だが、北朝鮮は外貨が枯渇している上に、新型コロナで中国との国境が封鎖されたため、インクなど紙幣を刷るのに必要な物資の調達が困難になり、紙幣の印刷が思うようにできなくなっている。

 そこで、北朝鮮当局はやむを得ず、国産紙と国産インクで金券という名の銀行券を発行し、紙幣を代替しようとした。ところが、施行初期の段階で偽造に遭い、まともに活用されることなく流通が中断されたのだ。国産材料でつくられた新しい金券は、あまり精度がいいものとはいえず、それゆえに大量の偽造が可能になった。

 ちなみに、以下が今回の新しい金券である。