文=酒井政人

2021年10月23日、第98回箱根駅伝予選会で中央学院大の栗原啓吾(中央)が激走、日本人1位に。写真=日刊スポーツ/アフロ

10枠をめぐり、41校がスタート

 雨となった昨年の箱根駅伝予選会は超ハイペースになり、通過ラインが過去最高水準に跳ね上がった。今年も高速レースが予想されていたが、立川市・陸上自衛隊立川駐屯地内のコースはさえぎるもがなく、風が強く吹いていた。

 9時35分、41校484人が一斉に駆け出して、「10枚」のチケットをめぐる戦いが始まった。スタートから約1㎞の直線は向かい風、逆方向は追い風。各校の指揮官はペース配分に悩んだことだろう。

 5㎞通過順位は立教大がトップで、前回突破できなかった大東大、流経大、駿河台大、東農大、慶大、関東学大も10位以内につける予想外の出だしになった。その後は7人のケニア人留学生が大集団から抜け出して、10㎞以降は有力校が順位を上げてきた。

 15kmは明大、山梨学大、日体大、中大、大東大、法大、神奈川大の順で、8位~12位までの差は57秒。ボーダー付近の争いは熾烈になってきた。18㎞の通過順位では大東大が11位に急降下。8位~12位の差は41秒で、専大、駿河台大、国士大、大東大、拓大の5校が「3枚」のチケットを争うかたちになった。

 7人のケニア人留学生がフィニッシュした後、残り1㎞でスパートした栗原啓吾(中央学大4)は向かい風に苦しんだ。フラフラになりながらも懸命に腕を振る。加藤大誠(明大3)が猛追してきたが、栗原が逃げ切り、1時間2分46秒で日本人トップに輝いた。

 

「強さ」が求められた今年

 最終成績は明大が10時間33分22秒でダントツトップ。以下、中大、日体大、山梨学大、神奈川大、法大、中央学大、駿河台大、専大、国士大の順で通過した。駿河台大が初出場を決めた一方で、拓大は55秒届かず、9年連続出場を逃した。

 昨年はスピードが欠かせなかったが、今年は風との戦いになり、「強さ」が求められた。終盤にタイムを落とさないために、序盤はペースを抑える必要もあった。中大は5㎞通過時22位から2位、神奈川大は同24位から5位、法大は同25位から6位に順位を上げている。

 また今年は過去最多12人の留学生ランナーが出走。ケニア人選手を擁する大学がボーダーライン付近(8~12位)で激戦を演じたことになる。なお正月の箱根駅伝には、シード校の創価大と東京国際大。それから予選会を突破した山梨学大、駿河台大、専大、国士大の6校がケニア人留学生を起用することなるだろう。

 

予選会にかける〝特別な思い〟

 予選会は各校のエースたちが〝特別な思い〟を抱いて戦う場所でもある。後続に4分近い差をつけてトップ通過を果たした明大は鈴木聖人(4年)と手嶋杏丞 (4年)のWエースが集団前方で攻めのレースを披露。後半は序盤を少し抑えた加藤大誠(3年)が強かった。

 加藤は前々回の箱根駅伝で1年生ながら2区を区間10位と好走するも、前回は区間17位と大苦戦。今季も前半シーズンは振るわず、山本佑樹駅伝監督は鈴木を5区から2区にコンバートするプランを口にしていた。しかし、「花の2区は譲らない」という熱い気持ちが加藤を奮い立たせたようだ。

「最後、(栗原に)勝ち切れなかったのは悔しいですが、1年以上くすぶってきて、ようやくいろいろなものが身になってきたかなと思います。明治はエース区間に配置できる選手ばかりですけど、箱根2区は渡したくない。2区を任されるためには、こういうところでチームトップを取らないといけないと思っていました。きつい予選会は二度と走りたくないですし、後輩たちにも走らせたくありません。箱根では3年連続の2区を走って、絶対にシード権を獲得します!」

 加藤に3秒先着を許した主将・鈴木も終盤は意地を見せていた。後続集団のチームメイトに抜かれたときに、「聖人、頑張れ!」と声をかけられ、奮起したのだ。

「このまま遅れたら情けないですし、これが箱根だったら絶対に後悔する。横っ腹が痛くて苦しかったんですけど、『やるしかない』と覚悟を決めたら、少しずつ良くなってきたんです。日本人トップ集団に追いつき、明治のなかで2番目にゴールできて、最低限の走りはできたのかな。個人的にはどの区間を任されても、区間3以内で走らないとチームの流れは変えられないと思ってます。部員全員で優勝争いに加われるチームにしていきたいです」

 2区候補の加藤と5区候補の鈴木が活躍した明大。選手層も厚く、本戦に向けて弾みになったことだろう。

 2年連続の2位通過を決めた中大は5000mでU20日本記録を持つエース吉居大和(2年)に熱視線が注がれていた。前半は集団前方で積極的な走りを見せる。終盤は両ふくらはぎがけいれんしてペースを上げられなくなったものの、チームトップの個人13位(1時間2分51秒)でフィニッシュした。

「日本人1位を奪うことができず、悔しさはあるんですけど、トラックシーズンに比べたら少しずつ自分の走りができているのかなと感じています。前回の箱根は大きく失速して、悔しい結果に終わりました。今度は全員が笑顔で終われるようにしたいですね。自分としては1区を希望していますが、任された区間で頑張りたい」

 前回は3区で区間15位に沈んだ吉居だが、今夏は月間走行距離を100~150㎞以上も増やすなどしっかりと走り込んできた。箱根路では持ち味のスピードを爆発させてくれるだろう。

 各校の日本人エースを抑えた栗原啓吾(中央学大4)にとって、今回は背水の陣になった。チームは夏合宿に故障者が続出。主力4人を欠いたメンバーになり、栗原に〝大量貯金〟が期待されていたからだ。2年連続の落選だけでは絶対に阻止しなければいけない。大きな重圧のなかで、10000m28分03秒39の中央学大記録を持つエースは冷静に攻めて、日本人トップを確保した。

「自分の役目は日本人先頭集団でタイムを稼ぐこと。自分が崩れたら終わりだと思って走りました。最後はもう体力が残っていないくらい出し切りましたね。予選会を通過するだけでこんなにうれしいかというくらい素直にうれしいです。本戦では1区か3区を走りたいと思っています。前半区間で区間上位の走りをして、しっかりチームに流れを作りたい」

 日本人エースたちが火花を散らした予選会。正月の箱根駅伝ではさらに熱いドラマが待っている。