76歳で逝去したクリスチャン・ボルタンスキー (c)Hervé Veronese. Centre Pompidou

(永末アコ:フランス在住ライター)

「制作すればするほど、私たちは消えて無くなりその作品になる。アーチストの欲求は、自分の作品になることではないか」

 それが何であれ、「作品」と名のつくものを生み出そうとしている人間なら、このボルタンスキーの言葉にはっとさせられるのではないだろうか。それは真実だが、容易なことではないと認識させられるからだ。

 そして、ボルタンスキーはそれを成し得た稀有な人物だ。

 去る7月14日、76歳で癌によりこの世を去った、フランスを代表し世界に名を馳せる現代アーチスト、クリスチャン・ボルタンスキー。彼のインスタレーションをはじめとする映像や音や写真などの作品からは、だから、彼に代わって鼓動や温度が感じられる。

 彼の作品は、「現代アートなんかわかりません」という人々にまで冷ややかに伝わり、一瞬、立ち止まらせる。なぜならアートとは実際、理解を促すものではなく、感じさせるものだから。

 そんなボルタンスキーの作品展が、ベルサイユ宮殿のロワイヤルチャペル、ルーブル美術館の大回廊、ポンピドゥー・センターの現代美術館で 10月13日より開催されている。

 一人のアーチストが逝ってたった3カ月後に、そのアーチストのオマージュ展が、フランスを代表する美術館や宮殿で同時に開催されるというのは、前代未聞のことではないだろうか。フランスはボルタンスキーに、大きな敬意を払っているのだ。