盗賊団と化した退役軍人を掃討した金正恩総書記(提供:KRT/ロイター/アフロ)

(金 興光:NK知識人連帯代表、脱北者)

 9〜10月の間に、数件の派手な政治ショーを催して虚勢を張った金正恩総書記だが、足元では体制を揺るがしかねないような問題が頻発している。それは、除隊軍人による相次ぐ略奪である。

 平壌の消息筋によれば、金正恩総書記の特別指示により、現在、北朝鮮国内で軍務に当たる人民内務軍は全域で非常事態体制にあるという。今年、除隊した15万人にも上る除隊軍人が盗賊団と化しているためだ。軍が盗賊団や反動分子の首謀者を捉えるなど、大騒動になっている。

 除隊軍人による略奪事件は全国的に広がっており、特に咸鏡南道と咸鏡北道での略奪が最大規模だ。

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マフィア化する除隊軍人

 例えば、咸鏡南道の検徳鉱山に配属された除隊軍人と、隣の大興鉱山に配置された特殊部隊の出身者が喧嘩と暴力、窃盗、住民や農場の襲撃、トラック強奪、耕牛屠殺などの犯罪を連日のように犯し、地方幹部が頭を痛めている。

 問題は、彼らは10年以上かけて殺人術を習得したプロフェッショナルだということだ。個人同士の喧嘩だけでなく、9月20日頃に勃発した乱闘劇では、数十人が死亡、もしくは重軽傷を負うことになった。

 事の発端は、検徳鉱山に配属された除隊軍人が隣の大興鉱山にまで降り、精鉱を盗み出した上に農家を襲撃したことだ。すぐにふたつの勢力がにらみ合うようになり、両者が衝突。大きな事件になった。

 今までにも小さな事例はあったが、除隊軍人が今回のような社会的不安要因として浮び上がったことはなかった。また、咸鏡南道、咸鏡北道だけではなく、江原道と平安南北道の除隊軍人は、配属された農場や建設現場での仕事を拒否し、組織暴力団と化している。

 彼らが軍隊で習得した能力は、人を殴って殺す能力でしかない。そんなならず者が、市場で商人を相手にピンハネしたり、市場で金品恐喝したりするなど、外国映画でみたような組織暴力団の模倣犯罪に手を染めているのだ。