写真:AP/アフロ

フィルム市場とカメラ市場で圧倒的ナンバーワンとなったコダックがなぜ倒産したのか? 失敗して倒産した企業の事例は、とても大きな気づきの機会をもたらし、私たちの行動を変えるヒントを与えてくれる。失敗はネガティブな事象ではあるが、後世を生きる人間にとっては成功事例以上に貴重な学習材料になるのだ。(JBpress)

※本稿は『世界「倒産」図鑑 波乱万丈25社でわかる失敗の理由』(荒木博行著、日経BP)より一部抜粋・再編集したものです。

 私は、学びデザインという企業を立ち上げ、スタートアップの学びの場のプロデュースや新規事業立ち上げのサポートを行う傍らで、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部において、学生にビジネスの作り方を教えています。

 教育の現場においては、一般的にはケースという実際の企業事例を活用しながら、学びを深めていくことが多いのですが、使用される事例は国内外問わずどのスクールにおいても、成功事例の方が取り上げられがちです。

 失敗事例はその逆で、責任問題やステークホルダーとの関係などがあり、語りづらいことばかりで、ケースにはなりにくい、というのがその背景です。だからこそ、時として形になる失敗事例のケースはとても大きな気づきの機会をもたらし、私たちの行動を変えるヒントを与えてくれるのです。

 なぜ失敗事例を通じて学ぶことの方が示唆深いのか。あえて言語化をすれば、「失敗することでしか気づけないことがあるから」ということだと思います。ひどい経営であったにもかかわらず、景気の波に乗って短期的な成功を遂げてしまう企業はたくさん存在します。

 その成功の途上で「経営の本質的な課題」に気づくことはとても難しい。なぜならば、成功してしまっているからです。

 しかし、やがてはその課題は水面下で肥大化し、企業が失敗した段階で初めて水面上に顕在化してくる。だからこそ、自分たちが成功や成長を遂げている時ほど、先人たちの失敗事例を通じて、その「水面下に潜む課題」というものにあらかじめ思いを馳せる必要があるのです。

「フィルム」を人々に知らしめた

 コダックは1884年にジョージ・イーストマンが創業した企業です。家計が苦しかったイーストマン一家に生まれたジョージは、14歳から保険会社で働き始め、銀行へと転職し、家計を支えます。転機が訪れたのは彼が24歳の時。趣味として湿板技術による大きな写真機材を持っていたジョージは、湿板技術の不便さを感じるとともに、いつでも撮影できるようになる乾板技術の可能性にいち早く気づきます。

 そこで、銀行に勤めながらも、その傍らで乾板のプロセス技術の開発に精を出し、3年後の1880年、ようやく乾板そのものと乾板生産技術の完成に至ります。その特許を持ってジョージは銀行を退職し、1884年、イーストマン・ドライ・プレート・アンド・フィルムを設立しました。確固たる技術をベースにしたベンチャー企業の誕生でした。