分科会の尾身会長の説明はとても科学的とは言えない。せめて一人は統計学者を入れるべきではないかと沖氏は説く(写真:つのだよしお/アフロ)

 コロナ第5波は終息したが、なぜ終息したかは明らかではなく、何をすれば感染減に繋がるのかという点も曖昧なまま。感染に関わる膨大なデータが日々発表されるにもかかわらず、新型コロナウイルス感染症対策分科会は科学的とは言えない説明に終始している。来たるべき第6波に備えるため、われわれは何を指標とすべきなのか──。統計解析のスペシャリスト、スタイルアクトの沖有人氏が分析する。

 新型コロナの第5波が終息した理由は何だったのだろうか。

 第5波のピークだった8月20日前後は全国で毎日2万5000人が感染する状況だったが、その後、急速に感染者は減少し、9月末には1000人台となっている。結果、緊急事態宣言は解除されたが、流行と抑え込みのメカニズムはいまだに分かっておらず、第6波の到来を前に、私たちはただおびえるしかない。

 この謎を科学的に解くにはどうすればいいのだろうか。私は統計分析を生業としており、主に不動産や人口予測の分野でマーケティングのための様々な予測モデルを構築してきた。その知見を生かして、どういう条件で新規感染者や死亡者が増加するか、予測モデルを作成した。そこで分かったことを、ここでみなさんにお伝えしようと思う。

 9月末の緊急事態宣言解除の記者会見では、当時の菅首相だけでなく、新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身会長が5つの要因を提示した。しかし、ここで挙げられた要因は、残念ながら統計的にはほぼ説明できないことばかりだった。

感染の減少と因果関係が見えない尾身会長の説明

(1)一般市民の感染対策強化

 第5波の山は高く、急降下している。この山と谷を説明するには極端な変化を伴う変数が必要だが、公開されているデータを分析する限り、そういった変数は見当たらない。自分の日常やメディアの報道を通してという限定的な範囲だが、このピークの前後で国民の日常生活が劇的に変わったという事実は見当たらない。国民の努力に対するリップサービスなのかもしれないが、因果関係は全く把握できない。

(2)人流、特に夜間の滞留人口減少

 公開情報を分析したところ、人流の減少は多く見ても、直近ピーク時の2割程度というところだ。

 例えば、お盆の時期の移動は東海道新幹線の乗車率の推移で分かる。それを見ると、8月の乗車率は7月以下で、お盆に例年のような大移動は起きていない。また、政府は人流を重視するが、ただの外出で感染した人がどれぐらいいるのだろうか。人流で感染拡大するのであれば、毎日、山手線でクラスターが発生していてもおかしくない。

 飛沫感染が主な理由と言われていることを考えれば、外出の制限に意味があるという統計的な説明はできない。

 なお、夜間の滞留人口を夜10~12時に外出している人だと定義すれば、いわゆる夜の店に行っている人が中心だろう。それは「うつるべくしてうつった人」であり、一般的な人流とは異なるのではないだろうか。