2020年のCESで「Woven City」構想を発表したトヨタの豊田章男社長(写真:AP/アフロ)

 21世紀の自動車産産業で重要なキーワードの一つは「エコ」、すなわちカーボンニュートラルまたは二酸化炭素排出削減である。だが、国ごとに好まれるアプローチは異なっている。それはアジア屈指の自動車生産国である日本と韓国も同様だ。日本勢が時間をかけて投資し、長期的な視野でアプローチするのに対して、韓国は政府の政策や支援金に左右される傾向にある。

 例えば、トヨタ自動車は9月7日に、バッテリー及び脱炭素に関する目標を発表した。そのプレゼンは専門的かつ詳細で、具体的な方向性を示していた。目標にいかに早く達するかという話ではなく、何をどういう順番で開発していくかという点が丁寧に描かれており、示唆に富むものだった。

 それに対して、同時期に開催された韓国の自動車業界による水素モビリティショーは水素社会の実現という目的こそ理解できるものの、具体的なアプローチについての言及は少なく、指し示している方向性は曖昧だった。どちらもエコを標榜しているが、両国の自動車メーカーの性格をよく表しているように感じた。

 アジアの自動車生産国の一つである韓国では、以前からエコや脱炭素について様々な意見が出されているが、補助金ありきで、政府の政策をうかがうものが少なくない。

 その代表に、低速電動車事業がある。韓国政府は2010年から2010年代半ばまで、エコで誰でも簡単に運用できる低速電動車への支援を打ち出した。その結果、複数のメーカーが参入したが、実体の伴わない会社がほとんどで、今なお残っているメーカーは見当たらない。
 
 クリーンディーゼルについても同様だ。

 炭素排出量が少ないディーゼルエンジン車が未来の交通手段になるとして、一部の大手マスコミや自動車と関係がないファッション誌がクリーンディーゼルを褒めちぎる記事を掲載した。だが、2015年9月にドイツ・フォルクスワーゲン(VW)のディーゼル不正事件が発覚すると、その後は一貫して沈黙している。

 権威ある自動車専門誌や専門家が自動車メーカーによるマーケティングの実態や、それに翻弄されているマスコミの姿を分析し、記事にしたこともあるが、フォルクスワーゲンは多額の広告費やマーケティング費を投入し、そういった分析記事を握りつぶした。最終的に、ディーゼル不正の問題が大きくなると、フォルクスワーゲンの責任者はドイツに帰国した。

 同様の問題は、現在の中古車輸入規制にも垣間見える。

 世界がエコに向かう中、燃費の悪い中古車は新しい車に置き換えられていくという流れにあるが、古い車に乗り続けることがエコへの一番の早道という評論家も多い。また、中古車の輸入や維持には自動車文化の発展という側面もある。

 韓国は自由貿易を謳っているが、中古車の輸入については規制のため、2015年以降の中古車以外は輸入できない仕組みだ。この規制は韓国の自動車メーカーの要求によって導入されたが、こういった背景や事情は役所の担当者を含め、誰も理解していない。

 ディーゼル不正事件にも共通しているが、韓国の問題は、大企業の基準に任せ、それさえクリアしていれば大丈夫と、政府が国民をマインドコントロールしているところにある。その結果、問題が起きれば政府はメーカーを処罰するが、そもそもの基準を丸投げしているという問題は何も解決されない。