(英エコノミスト誌 2021年10月2日号)

中国は40年に及ぶ急激な発展の歪みを取る段階に入っているのかもしれない(写真は上海)

習近平国家主席は中国の資本主義者の行き過ぎを取り締まる作戦によって評価されることになる。

 習近平国家主席が資本主義の行き過ぎを中国から一掃するキャンペーンを展開している。

 習氏は、急増する債務は金融投機がもたらした毒の実で、億万長者の存在はマルクス主義を蔑ろにするものだと見ている。

 企業は国家の指導に留意しなければならず、共産党は国民の生活の隅々に浸透しなければならない。

 習氏が描く新しい現実を押しつけることができるか否かは、中国の将来を、そして民主主義と独裁主義による思想の戦いをも左右することになるだろう。

富を破壊するすさまじいキャンペーン

 同氏の作戦は、その範囲においても目標においても、まさに非凡なキャンペーンだ。

 2020年に巨大ハイテク企業アリババ集団の傘下にあるアント・グループの新規株式公開(IPO)を政府当局が阻止したのを皮切りに、すさまじい勢いで推進されており、これまでに破壊した富は2兆ドルに及ぶと見られる。

 配車サービスを展開する滴滴(ディディ)は、米国で株式を公開したことにより罰せられた。

 多額の債務を抱える不動産開発業者の恒大集団は、デフォルト(債務不履行)へと追い立てられている。

 暗号通貨取引所での取引は禁止され、営利目的の学習塾運営もほぼ禁じられた。

 ゲームは子供に有害だから厳しく制限しなければならない。中国は家族の人数を増やす必要があるから妊娠中絶を減らさなければならない。男性のロールモデルは男性らしくあるべきだし、有名人は愛国的であるべきだ――。

 これらすべての土台になっているのが、今では6歳児の頭にたたき込まれるようになっている「習近平思想」だ。

 このキャンペーンは、残忍な権威主義がすでに広まっている国で展開されている。

 習氏は国家主席としてライバルの政治家を追放し、100万人超のウイグル人を拘束している。議論を取り締まり、反対意見を容認しない。

 習氏という人物が、経済成長が鈍化しようが人民が困窮しようがお構いなしに権力を自分に集中させようとするイデオローグなのか、それとも実用主義でドグマを緩和することを厭わないストロングマンなのかは、今回のキャンペーンで明らかになるだろう。

 企業が国家と足並みをそろえ、かつ市民が忠実に国家に尽くす状況を共産党支配を通じて確実なものにする習氏のビジョンは、14億の人民の運命を決めることになる。