自民党の新総裁に選出された岸田文雄氏。写真は2021年9月13日撮影のもの(写真:ZUMA Press/アフロ)

(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)

 9月29日に投開票が行われた自民党総裁選挙で岸田文雄が第27代総裁に選出された。10月4日に招集される臨時国会で第100代内閣総理大臣に指名される。

 菅義偉首相の任期満了に伴う総裁選の日程は組まれていたものの、菅首相の立候補断念を受けて、事実上の次期首相を選ぶレースは混沌としてきた。ここぞとばかりに、発信力で勝る現職の新型コロナウイルスワクチン担当大臣の河野太郎が立候補を表明。高市早苗、野田聖子の女性候補2人が加わった四つ巴で、報道各社は世論調査でも支持を集めていた河野が優勢とする見方が大方を占めていた。

 それが終わってみれば、菅首相が総裁選への再出馬を断念する以前から、現職への戦いを厭わずいち早く出馬表明をした岸田が勝利を収めた。1回目の投票で河野と1票差とはいえトップに立ち、上位2人による決選投票でそのまま当選を果たした。この結末に報道各社は、なぜ河野は敗れたのか、とする分析記事――というより、言い訳を載せている。

岸田勝利は「予想外」ではなかった

 だが、河野の敗北というより、岸田の勝利は予想外のことだったのだろうか。少なくとも私にはそうは思えない。早い時期から、岸田が勝利する道筋はできていたはずだ。

総裁選に挑戦するも岸田氏に敗れた河野太郎氏。写真は2021年9月16日撮影のもの(写真:ロイター/アフロ)

 報道機関のあらかたの分析は、開票日の2日前に決まったとするものだ。世間的な人気で党友・党員票で優位に立つ河野が初回投票で1位になったとしても、議員票が9割を占める決選投票で、2位の岸田に高市陣営が加担する「2位・3位連合」ができあがったからだ。岸田陣営の選対顧問を務める甘利明と、高市を支持する安倍晋三、それに河野の所属派閥の領袖の麻生太郎の頭文字を取った「3A」が、その筋書きをつくったとされる。

 任期満了が迫る衆議院選挙に支持率の低迷で「菅では戦えない」という「菅離れ」が加速していた1カ月前。目立つことなら他者を凌駕する河野待望論が選挙に弱い若手を中心に沸き起こっていたことも理解できる。そこに菅首相が自ら政権の看板をたたむことを表明したことで、自民党の支持率も上がり、流れも変わった。