伊勢志摩サミットで伊勢神宮を訪れた安倍元首相(写真:ロイター/アフロ)

 一時は関係が離れた国家と宗教だが、最近はその距離が再び近づきつつある。直近の事例では、アフガニスタンを掌握したタリバンだが、世俗主義を掲げていたトルコとインドは今ではイスラム国家、ヒンズー教国家の色彩を帯びている。

 それは欧米にも見られる。トランプ政権で明らかになったように、宗教右派が支援する共和党は宗教色が色濃くなっている。ドイツが脱原発を決めた際も、決定を下した倫理委員会にはプロテスタントやカトリックの教会関係者が名を連ねた。

 20世紀の後半まで、世界は特定の宗教的権威から独立した世俗主義へと向かっていると考えられたが、再び宗教勢力が国家に影響力を与えている。なぜ世俗主義が後退しているのか。日本ではどのような変化が起きているのか──。宗教学者で上智大学グリーフケア研究所の所長を務める島薗進教授に話を聞いた。(聞き手、篠原匡)

世界的に宗教勢力の影響力が増しているのはなぜか

──中東では、イスラム教の厳格な解釈で知られるタリバンがアフガニスタンを掌握しました。タリバンほどではありませんが、トルコやインドなど、宗教色の強い政党が政権を取っています。ここに来て、宗教勢力の影響力が顕著に増している背景には何があるのでしょうか。

島薗進氏(以下、島薗):一つは、20世紀に広く信じられていた世俗主義に対して疑義が呈されているということだと思います。

 今の時代はポスト世俗主義と言われています。世俗主義とは、国を率いるリーダー層が特定の宗教に拠らず、政教分離の原則で統治するという考え方です。近代になり、人々が宗教的、伝統的権威から脱して合理的な考え方を重視するようになったことで、世俗主義が世界に広がっていきました。

島薗進(しまぞの・すすむ) 1948年東京都生まれ。東京大学文学部宗教学科卒業。同大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。東京大学名誉教授。上智大学グリーフケア研究所所長。主な研究領域は、近代日本宗教史、宗教理論、死生学。『宗教学の名著30』(筑摩書房)、『宗教ってなんだろう?』(平凡社)、『ともに悲嘆を生きる』(朝日選書)、『日本仏教の社会倫理』(岩波書店)など著書多数。

島薗:その背後では、科学と経済の発展が相即しています。産業革命以降の科学技術の進歩と、資本主義や市場経済による経済革新によって米国や西欧は豊かさを享受しました。その中で、従来の宗教的権威や伝統的な慣習は徐々に後退し、科学的合理主義や世俗主義が普遍的な価値のようになった。

 それは旧ソ連と社会主義も変わりません。マルクスは宗教を否定し、彼とエンゲルスが創始した総合的な世界観としての共産主義は科学的唯物論の立場を採りました。マルクスは階級対立の終焉と自由で平等な社会の到来を説きましたが、そのベースにあるのは科学の発展に伴う生産性の上昇です。

 今から考えればかなり楽観的な話ですが、毛沢東思想もマルクス主義の発展系で、中国を率いる習近平国家主席の中にも科学的唯物論の思想が流れています。このように、戦後から1970年代までは、社会主義を含め、幅広い地域で宗教的権威が後退しました。

──ところが、今は世俗主義が後退し、宗教的権威が復権し始めています。転換点はどこにあったのでしょうか。