自民党の新総裁に選出された岸田氏。危機時に露呈する日本の問題を解決できるか(写真:ロイター/アフロ)

 少子高齢化と人口減少が進むわが国の社会の質を維持し、さらに発展させるためには、データの活用による効率的な社会運営が不可欠だ。一方で、データ活用のリスクにも対応した制度基盤の構築も早急に求められている。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、これまでの経済、社会のあり方は大きく変わろうとしている。

 その中で、日本が抱える課題をどのように解決していくべきか。データを活用した政策形成の手法を研究するNFI(Next Generation Fundamental Policy Research Institute:次世代基盤政策研究所)の専門家がこの国のあるべき未来図を論じる。今回は日本の社会システムのマネジメントについて。なぜ現場は優秀なのに、全体の社会システムはお粗末なのだろうか。

◎過去の記事はこちら(https://jbpress.ismedia.jp/search?fulltext=NFI&page=1)をご覧ください。

(森田朗:NFI研究所理事長)

 コロナの第5波もようやく終息の兆しが見えてきたが、専門家によると、まだまだ油断はできないそうだ。とにかく早く多くの国民がワクチンを接種するとともに、緊急事態宣言が解除されても、感染予防に努めることが必要という。

 ワクチン接種が進んだことにより、最近になってようやく政府や自治体によるコロナ感染症への対応も効果を表し始めたが、それまでは、重症者のために必要な病床の確保にしても、また昨年の10万円の給付金にしても、接触確認アプリ「COCOA」にしても、電話とファクスで仕事をしているという保健所にしても、このデジタル化の時代にもう少し何とかならないのか、もっとうまくできないのかと歯がゆい思いをした国民は多いはずだ。

 他方、国が設置した東京大手町の自衛隊運営の接種会場に行くと、自衛隊員が実にキビキビと仕事を処理し、スムーズに接種が進んでいるという。それ以外でも、わが国の電車は時刻に正確だし、ホテルや交通機関のサービスもよい。国民が接触する組織の窓口での担当者によるサービスの質は、諸外国と比べて優れている。なのに、どうして国、自治体や大きな組織のオペレーションになると、そうはいかないのか。

 思うに、わが国の大きな組織の活動のあり方に構造的な問題がありそうだ。一言でいえば、それは巨大組織におけるマネジメントの欠陥である。こういうと、先に述べたように、わが国の交通機関にせよ、医療機関にせよ、そのオペレーションの水準は、他国と比べても高く、それがわが国の評価を支えているという反論が返ってくる。

 確かに、現場のサービスや前線部隊は優秀であり、技量も高く、士気も旺盛である。しかし、それが組織全体としてどうかといえば、優れているとはいいがたい。生物体にたとえれば、この状態は、“末梢神経”は非常に敏感で優れているが、組織を貫く“中枢神経”がダメな状態といえよう。

 こうした弱点が指摘されたのが、戦前のわが国の政府、特に第二次大戦時の軍であることは知られている。戦後「失敗の本質」が解析され、戦前の体制についての反省もなされたはずであるが、にもかかわらず、今日でもなお日本の政府や組織は同様の欠陥を有していると思われるところが少なくない。

 旧日本軍の場合、前線で戦う兵の技量は優れており士気も高かったが、組織全体としての指揮命令体制が厳格ではなく、傘下の部隊に対する統制は充分に効いていなかった。それが関東軍をはじめとする部隊の暴走を招き、彼らが作り上げた既成事実を否定できず、結果として、誰が決断し命令したのかが不明確なまま、戦争遂行という「空気」に抵抗できず、ズルズルと戦争の泥沼の深みにはまってしまった。

 このような体制は、平時のルーティン・ワークでは問題が顕在化しないが、危機や新たな状況の展開によって、それまでのやり方では対応できなくなった時、欠陥が現れてくる。

 そして、こうした弱点を持った組織やシステムは、現在でもわが国には少なくない。コロナ禍でそうした欠陥が露呈したといえるのが、わが国の医療の提供体制であろう。