文=石崎由子(uraku)写真=Shuhei Tonami
老舗酒造メーカーの新たな取り組み
一年遅れの東京オリンピック、パラリンピックが無事閉会し東京はいつも通りの姿に戻りつつあります。連日自ら掲げた目標に挑戦する選手の姿に、胸を熱くした人も多かったのではないでしょうか。
そんなスポーツの祭典が開幕する少し前の今年の5月21日に、同じように新たな道を模索し挑戦し続けている信州の老舗酒蔵が、全国新酒鑑評会で金賞を受賞しました。
その酒蔵とは、長野県の諏訪に酒蔵を構え350年をこえる歴史を持つ老舗、「真澄」のお酒で有名な宮坂醸造です。
長い歴史を持つ宮坂醸造が、原点に向き合い、未来に向けてリブランディングするという取り組みから生まれた純米大吟醸「夢殿」が、偶然にも発売日に全国新酒品評会で金賞を受賞するとは、彼らも想像していない結果でした。
日本酒という嗜好品のあり方や、存在の立ち位置が、時代とともに少しずつ変化してきていることをしっかりと捉え、思い切った方向転換への挑戦について次期当主の宮坂勝彦さんにお話を伺いました。
多様性へと移り変わる日本酒マーケット
宮坂醸造の創業は1662年、今年で359年を迎えます。元はこの地を納めていた諏訪氏に仕える武士だったそうです。美しい水が豊かな長野県諏訪市の諏訪湖近くに酒蔵を構え、御柱祭で有名な諏訪大社の御宝鏡「真澄鏡(ますみのかがみ)」から酒名にいただいた「真澄」は広く愛されているお酒です。
また日本酒に詳しい人であれば、ここ宮坂醸造は「七号酵母発祥の地」としても知られています。
すでに酒蔵としての知名度とブランドを確立している彼らが、あえて行ったリブランディングの背景には時代の変化とともに進むマーケットの多様化への変化があります。
日本酒は稲作が日本に入ってきた頃から始まったそうです。日本の稲作文化とともに歩んだ日本酒の歴史は明治以降の近代化とともに、新たな製法の発見により大幅に生産数を増やしていき、大衆化していきます。
しかしバブル期の頃から、海外からの様々のアルコール飲料、ワイン、ビール、ウイスキー、などの輸入が増えていったことなどからお酒のマーケットに変化が訪れます。
2000年代に入るとその動きは加速し、さらに日本の人口減少もあり、厳しい状況になっていきます。その頃から、日本のお酒の造り手たちに新たな道を模索する動きが見え始めてきたそうです。