※本コンテンツは、2021年8月26日に開催されたJBpress主催「第2回 公共DXフォーラム」の特別講演Ⅱ「研究学園都市つくばのまちづくり」の内容を採録したものです。

 9月にデジタル庁が創設された日本では、各地で公共DXの動きが見られる。中でもいち早く取り組み、注目を集める自治体の一つが茨城県つくば市。同市では「研究学園都市」という特性を生かしたDXが進行中だ。改革のリーダーシップを発揮する五十嵐立青市長に、現在進めている公共DXの実例と、同市が掲げる「スーパーサイエンスシティ」の在るべき姿を聞いた。

「科学のまち」が抱える社会的課題

 人口約24万3000人のつくば市は、研究機関150カ所、研究従事者2万人、博士号取得者8000人を抱える「科学のまち」だ。また、多くの地域で自治体人口の減少が進む中、年約3500人ペースで人口が増えている珍しい自治体でもある。

 しかし、同市が直面している課題は、多くの地方都市に共通するものが多いと、2016年に市長に就任した五十嵐氏は言う。

「第一に課題として挙げられるのは、『生産年齢人口の減少』と『周辺地区の高齢化』です。市域全体の高齢化率は19.2%(2018年度)であり、全国平均28.1%と比較すると比較的低い数値ですが、全体だけでなく、詳細に見ていくことも必要です。当市は、つくばエクスプレス沿線(TX)の中心部と周辺地区における出生率と高齢化率にギャップがあります。TX沿線地区では出生率2.24、高齢化率4.4%と比較的若い世代が暮らしていますが、周辺地区は高齢化が進んでいます。最も高齢化率の高い茎崎地区では出生率0.90、高齢化率は37.9%にも上ります」

 他にも、中心市街地のにぎわいの低下、大型商業施設の撤退や東京と接続するつくば駅から繁華街へのアクセスの悪さも影響し、経済活動の活性化につながっていないことや、公共インフラの老朽化、居住する外国人(140カ国、1万人)が必要な情報にアクセスするのが困難(国際性への対応が不十分)など、さまざまな課題を抱えている。

 課題の中で、五十嵐氏が特に問題視するのが「科学技術研究機関の成果が、科学のまちの市民に還元されていない」ということだ。

「私が市長就任後に実施した市民意識調査では、『科学のまちであることの恩恵を感じていますか』という質問に対して、約50%が感じていないという結果が出ました」

 そこで五十嵐氏は、「世界のあしたが見えるまち。TSUKUBA」というビジョンを掲げ、課題解決に乗り出した。全人口の1万人が外国人という国際都市としての側面もあるつくば市で、最先端技術などを駆使し、気候変動の問題、農業、食糧、貧困、男女平等といった世界的な課題解決へのヒントを生み出す市として発信していくべきだとの思いがそこにある。

「人類に貢献することが、国策でつくられたつくば市の使命ではないでしょうか」