日々の生活・企業活動・地球環境。

 それぞれ別のシステムと捉えて動いていたそれらの営みをつなげ、循環させていくアクションを起こすことが地球規模の課題解決には大事である。生活者は商品を購入する際に価格面のメリットだけを見るのではなく、商品が作られた背景やその工程までも意識する必要があり、商品を使った後のゴミのリサイクル方法も明確かといった点まで意識を向けていかなければいけない。

 IBM Future Design Lab.とHEART CATCHが組んで展開する未来を作る座談会オニワラ #6では、地球環境に対して今後、必要になるアクションを生活者目線、企業目線で語り合った。

「捨てるという概念を捨てよう」というミッションステートメントのもと、Loopという循環型ショッピングプラットフォームを展開するテラサイクル・ジャパンの冨田大介氏は生活者であるわれわれがアクションを起こす際に指標となる強いメッセージを発してくれた。

「『消費は投票である』、という意識を持って購買することが生活者=地球市民としてわれわれが行動できる第一歩となる」と冨田氏は語る。

 Loopではグリコ、P&G、キッコーマン、味の素などと組み、生活消費財をリユース可能なデザイン性高い容器とともに販売するスキームを作り、活動している。米国発のソーシャル・エンタープライズである同社のモデルは日本人にはなじみ深いビジネスモデルとも言えるだろう。豆腐を買う際に家から容器を持参し、豆腐だけを購入する豆腐屋ビジネスモデルを、メーカーをまたいでグローバルに展開しているのがLoopだ。

 2021年5月にはイオンと組んで、使い捨てではなく、再利用できる容器で消費財を購入し、使用後に空き容器を店頭に返却するというLoop循環型ショッピングプラットフォームを展開し始めた。

 ただ、イオンの店頭に立ってLoopの紹介をしている際に冨田氏は焦りを覚えたという。Loopに興味・関心を示してくれた人々は「地球のために素晴らしいことをしていますね、応援しています」と言う一方、リユース可能な容器を使うキシリトールガムが1000円を超えるという価格を見て購買を躊躇するシーンを多く目撃し、良いことだと分かりつつも価格プレッシャーにより行動を起こせない人々を前にLoop創業者の『消費は投票である』という言葉の重要性を再認識したそうだ。

「エシカル=倫理的かつサステナブル」な思想をファッション、デザインを通じてライフスタイルに定着させているエシカル・ディレクターの坂口真生氏もオニワラ #6の登壇者として、われわれがこれから起こすべきアクション指針を伝えてくれる。J-WAVEのナビゲーターとしての情報発信、エシカルコンビニの展開等を通じてのエシカル・ディレクションを行う坂口氏であるが、エシカル&サステナブルな取組みを根付かせる際にはアメリカインディアンの教えであるセブンス・ジェネレーション、7世代先まで考える長期的視点を持つことが必要だと語る。

 エシカル・サステナブルな商品は効率化よりも地球環境、人々の営みを大切に作り上げられる。安価な材料を仕入れるための劣悪な労働環境を土台に生み出される商品には積極的にNOを言う必要がある。地球にも人にも道徳的なプロセスで生み出された商品は、価格競争とは違う次元で市場に登場する。

 そうすると一般消費者の視点で見ると、エシカル・サステナブルなものはいいけど、「とはいえ」高額であり購入しづらい、という意識が起こる。この「とはいえ論」に遭遇する際に坂口氏が信条としているのは「現在の価格競争だけを見るのではなく、長期的視点で見たきに、それが本当に高いかどうか?むしろ高くない、と確信することが重要」である。現在というスナップショットで見る商品の価格を地球環境や社会課題を意識したときに妥当な価格なのかどうかを判断する基準軸を、長期目線で持つことも大事である。

 冨田氏と坂口氏が語る生活者の意識変容とともに、企業もアクションを起こさなければならない。オニワラ座談会のレギュラーメンバーであるIBM執行役員 藤森慶太氏は「『消費は投票である』という意識を持つ生活者、7世代先まで考えて行動するモノ言う消費者に対して企業側はその声を受け取り、アジャイルに返していく準備をしなければいけない。受け取るだけ受け取って、企業が何もアクションを起こさないと消費者も声を上げなくなってしまう。健全な社会を作る上でも企業のアジャイルな行動というものがより重要になる」と語る。

 また、同IBM執行役員の山之口裕一氏は地球課題に取り組む企業間連携の必要性を事例と共に紹介する。

「これからの地球環境問題は、もはや企業が片手間で取り組めば済む、周辺課題ではない。地球環境問題は、企業にとって、リスクであり機会。そして、企業がどのように環境問題に取り組むかは、企業経営や経営戦略に直接、影響する」

 山之口氏はこのように切り出し、地球環境に対するテクノロジー活用の必要性と企業同士が「つながる」ことで課題解決に結び付くと語る。

 事例としてShell社と組んだ資源産業特化プラットフォーム、世界最大の窒素肥料メーカーであるYara社と組んだ持続可能な食料生産を可能とする農業プラットフォーム、Plastic Bankと組み、ブロックチェーンテクノロジーを活用したプラスチックゴミ収集プラットフォームなどIBMならではのグローバルスケールでの地球課題解決への企業間連携プラットフォームが勃興し始めていることを紹介し、「現在のバリューチェーンが線形であるとすると、循環を意識した円形のバリューチェーンを意識する必要がある。消費者としても企業人としてもワンショットの購買を意識するのではなく、円形のループを複数回回した後にどのような結果がもたらされるのか。長期視点、購買後の商品の行く末を意識した行動が必要である」と語る。

 そのためのAI、ブロックチェーン技術が整い始めており、日本国内でも三菱重工(CO2流通を可視化するCO2NNEXTM)、三井化学(ブロックチェーンベースの資源循環プラットフォーム)、旭化成(プラスチック資源循環プラットフォームBLUE Plastic)などと組んだIBMの地球課題を解決するための具体的な取り組みが始まっている。

 エシカル・ディレクターの坂口氏はそのような大規模な地球環境のためのテクノロジープラットフォームを生み出すIBMとファッションやデザインが「つながる」必要性も訴え掛ける。

「10年以上前からファッション、ライフスタイル分野でエシカル・サステナブルの必要性を訴え掛けてきたことで、考え自体は浸透してきていると手応えを感じています。ですが、待ったなしの地球規模での課題解決に向けてはより大きなスケールで変えていかなければいけないと考えています。私自身は経済学者とも今後、組んでいきたいと考えているのですが、同時に、デジタル、テクノロジーの大胆なアプローチも大事だと考えており、クリエイティブとテクノロジーの結実の必要性を感じている」と話し、ファッション、デザインを軸にtoCに訴え掛けていくアプローチとIBMのようにテクノロジードリブンでtoBへの働き掛けをする動きを協調させていく必要性を語る。

 同時に、坂口氏はデジタルコミュニケーションの新たな在り方も提案する。「個人個人がワクワクしながらサステナブル・エシカルなコミットメントを起こすためには生産者と購買以外のコミュニケーションも大事になります。その際にデジタル、テクノロジーが生かされていくと考えています。これからは人とモノやコト、企業が結び付くデジタルコミュニケーションによりサステナブルでエシカルなつながりが生まれてくると考えています。デジタルなクリエイティブとファッション・デザインがつながることにより、より良い社会が作れると信じています」

『消費は投票』である。そのためには消費する商品の背景にあるストーリーを理解しなければならない。企業はアジャイルに生活者の声を拾って、商品を生み出すとともに、透明性ある企業活動、商品に込めた想いも発信していく必要がある。

 モノ言う生活者と、迅速に対応する企業になるためにはデジタル、テクノロジーでつながる基盤を作り、新たな社会基盤にするコミュニケーションが必要になる。ファッションを軸としたエシカル・ディレクター、ソーシャル・エンタープライズ、テクノロジーカンパニーという今まで接点が少なかった企業や活動がつながるだけでも未来に対してのヒントがたくさん見つかった。地球環境を意識した豊かな社会を生み出すためには透明性ある対話も大事になることを改めて実感したオニワラ #6であった。

 オニワラ #6はIBMデザイナー山田龍平氏のグラレコでもご確認いただける。

 また、全貌を確認したい方はアーカイブもアクセスしてほしい。前半30分でゲスト登壇者3人(エシカル・ディレクター坂口真生氏、テラサイクル・ジャパン冨田大介氏、IBM執行役人山之口裕一氏)によるインプットトークもぜひご確認いただきたい。

https://youtu.be/ZKdMNPTjWog

オニワラ #6グラフィックレコーディングby IBMデザイナー山田龍平氏