取材・文=髙岡麻彩 画像提供=山梨銘醸

2021年4月29日から販売をスタートした「Alain Ducasse Sparkling Sake」。アラン・デュカス氏とジェラール・マルジョン氏との緊密なコラボレーションのもと、山梨銘醸が生み出した独自のスパークリング日本酒だ。「2030年、スパークリング日本酒として知名度をNo1にしたい」と語る、山梨銘醸で醸造責任者を務める北原亮庫さん。若き醸造家の熱意に迫ります。

旨味と酸味、爽快感が絶妙なスパークリング酒

 まるで、シャンパンのようなフォルムのスパークリング日本酒が登場した。世界11カ国で三ツ星を含む約30のレストランを統括するアラン・デュカス氏とアラン・デュカスのレストランのソムリエを統括するエグゼクティブ・シェフ・ソムリエ ジェラール・マルジョン氏との緊密なコラボレーションにより、山梨銘醸が造り上げたものだ。

「Alain Ducasse Sparkling Sake」販売元=山梨銘醸

 白州の清らかな水と調和した酒造りを行う山梨銘醸の酒造りに、アラン・デュカス氏が持つ地中海から来ている深いインスピレーションが融合している。地中海料理に、和のエッセンスが組み合わさった、そんなイメージだ。

 まあるいお米の甘さを感じる旨味と、お料理には必須のエレガントな酸味、最後の飲み口にキリッとした爽快感も感じられる絶妙なバランス。さくらんぼの風味が感じられるのは、桜の木でできた樽を活用した樽熟成のスパークリング酒だからだ。

 クラシックとモダンを融合し、洋と和のインスピレーションを調和させて、五感を研ぎ澄まされていくような、山梨銘醸の酒。日本酒業界を大きく変えてしまうようなパワーを秘めている酒蔵に取材をさせていただく機会を得た。

 取材をさせていただいたのは、アラン・デュカススパークリング酒を生み出した、醸造責任者、北原亮庫さんだ。

 

過去を乗り越え、新たな「七賢」をスタート

醸造責任者・北原亮庫さん

 北原亮庫さんは大学卒業後からお酒造りに携わり、15年。2014年に醸造責任者になり、現社長である兄の北原対馬さんと二人で酒蔵を切り盛りしている。大学卒業後、半年間アメリカへ。その後、3年間岡山の酒蔵で酒造りを経験し、25歳の時に山梨銘醸に戻って来たという。

山梨銘醸

 もともと、山梨銘醸の酒蔵の生産量は1万石の設計だったという。しかしピークでも9000石。ご兄弟が酒蔵に帰ってきた頃には1700石にまで落ち込んでいた。最盛期は毎年20人程の蔵人が新潟から来ていたのが、当時は7人でやっていたという。2人は、2014年から、酒質を向上させるための大改革を実行し、様々な取組みを経てV字回復に成功した。今までの大量生産型の社内体質を見直し、最大製造数量を4000石に制限。現在では3000石を製造している。

 今までのお酒を愛飲してくれている人もいただろう。しかし、「新しいお客様に楽しんでもらえるお酒を造る」改革に迷いはなかったという。今では、お客様から「七賢は変わったね」、「七賢は美味しくなったね」、そして「どれを飲んでも七賢らしい味わいだね」と言われるようになったのだそうだ。

取材当日は、全国新酒鑑評会金賞受賞発表のタイミング。金賞受賞した、純米大吟醸大中屋(写真左)

 今までやってきたことを変えて、新しいことにチャレンジするというのは、大層勇気がいるものだ。それを前向きにサラッと成し遂げてしまう、そんな風に見えた。その自信やお客様の喜ぶ姿を信じて前進していく強さ。そこには何かがある。その「何か」を突き止めたくて私は心がうずうずした。

 

酒造りを支える白州の水

「白州の水を体現するお酒づくり」が一番大事だと話す北原さん。山梨はミネラルウォーター生産第1位。シェア約30%の水資源王国なのだそうだ。

 このNo.1の地、山梨県の白州の水で作っている酒蔵は七賢を醸す山梨銘醸だけ。日本酒は何と言っても水が大事。原料比率としても水が一番高い比率を占める。お米を洗い、洗米した後の吸水、蒸気も全て水である。原料米が水をどれだけ吸水するかで出来上がる味わいも全く変わる。そのため、水をどのように扱うかが大事なのだ。水との相性を考えていくことが七賢の味わいを造っていく上では必要不可欠だ、と北原さんは言う。

 日本は水道水をそのまま飲むことができる国。世界的に見て、かなり恵まれている。日本人は、水が美味しいのはなんとなくわかっているけれど、お酒を造る人は、そこにもっとフォーカスしていかなければならないと北原さんは提議する。

 自然に感謝して、自然環境をよりよくするという視点を持って酒造りをしないといけない、というのだ。

 その考えに行き着いたのは、北原さんがお酒造りをスタートした頃、お酒を買って分析して、同じものを造ろうとチャレンジしたのがきっかけだった。同じように造ってみるけれど、なかなかうまくいかない。その理由が、地域によって水が違うということにあると気づいたのだそうだ。

 そこから、水をつくる要素をまとめていくことが地域・地方を盛り上げる地酒になるという考えにいたった。水を生んでいる山、濾過している岩質によって、水に含まれるミネラルの差で、水は変わる。水に含まれているもののバランスが大事なのだ。

 

農家の人と、地域の人と

 酒造りは米作りから始まる。山梨銘醸は、北杜市35軒の契約農家と取引し、農業法人も持つ。自分たちでお米の生育を見守りながら、定期的に田んぼに行って農家の人と一緒に酒米から作っていく。なぜなら、米作りにおける、お米の状態などの情報があるかないかで、酒造りのスタートが全く違うものになるからだ。情報がないと、お米を探るところから酒造りが始まってしまい、思い切ったものを造れないのだそうだ。

 北原さんはこのように教えてくれた。

「酒を造る立場になって、地域があって僕らがいると、より感じるようになった」

 農家の方々との信頼関係のもと、お米が作られていて、酒造りを通して、地域の人と結び合って連携してきた。定期的に酒蔵では七賢マルシェを開催している(現在はコロナ禍で開催はしていない)。県内の大きな酒蔵だからこそ、地域に貢献、恩返しをしていかなければならないのだという。