当局の厳しい監視下に置かれているアリババグループの創業者、ジャック・マー氏

 1970年代末以降の中国経済の高成長は、国家統制と市場経済の微妙なバランスの上に成り立っていた。しかし、ここにきて、中国政府は、市場経済を牽引してきた民間企業に対する規制を強めている。

 中国政府は昨年11月にフィンテック企業アント・グループの新規株式公開を中止に追い込んで以降、プラットフォーム企業(注)に対する締め付け姿勢を鮮明にしている。

 具体的には、アリババに対して独占禁止法違反で約182億元(約3100億円)の罰金を科したほか、米国に上場した中国配車アプリ最大手の滴滴出行(ディディ)などネット企業3社に対し、国家安全上の理由でネット規制当局が審査を行った。

 その後もユーザー数が100万人超の中国企業が海外上場する際に当局の審査を義務付けた。

 また、中国政府は本年7月24日、学習塾に対して、教育サービス企業は非営利団体にするなどの厳しい規制を設けた。

 以上のように、今、中国では様々な産業分野で規制の強化が行われている。

 そして、政府の考え一つで、昨日まで普通にビジネスを営んでいた産業が突然存続の危機に立たされるという「チャイナリスク」が顕在化してきた。

 極論すれば、今、中国で大きな地殻変動がおきているのである。そして、その震源地は習近平党中央委員会総書記(以下、総書記)である。

「中国の習総書記はずっと以前から民間セクターに強い不信感を持っていた。現在は同セクターを服従させる動きを明確にしつつある」

「毛沢東以来で最も強力な中国の指導者である習氏は、世界第2位の自国経済に対する国家の支配力を一層強めたいと考えており、あらゆる規模の民間企業をその方針に従わせようとしている」

「中国政府は、民間企業内により多くの共産党関係者を送り込み、融資条件を厳しくし、経営幹部らに国家目標達成に向けた事業の方向付けを求めている」

「一部のケースでは、統制を欠くと判断された企業を国有企業に吸収させ、完全に支配下に置いている」(出典:WSJ2020.12.12 )。

 そして、2020年9月15日、共産党中枢の事務を取り仕切る中央弁公庁は、習近平総書記の意向を汲んで、統一戦線工作の強化を指示する文書を発表した。

 統一戦線工作とは共産党以外の勢力を取り込む政治活動を指す。

 国営通信社の新華社電によると、改革・開放が始まってから、党中央が民営企業に対する統一戦線工作の文書を出したのは初めてである。(同文書の詳細は後述する)

 なぜ、中国共産党は民間企業に対する規制を強めるのか。これが本稿のテーマである。

 初めに民間企業への規制強化に関する主要事象について述べ、次に「統一戦線工作の強化指示」の概要について述べ、最後に中国共産党が民間企業に対する規制を強化する理由について述べる。

(注)プラットフォーム(platform)とは英語で、「基盤」や「土台」「場」といった意味を持ち、プラットフォーム企業とは、簡単に言えば「ITを活用したサービスを展開するためのインフラを提供している」企業のことである。米国のGAFAや中国のBATH(Baidu、Alibaba、Tencent、Huawei)が代表的なプラットフォーム企業である。