※本コンテンツは、2021年7月1日に開催されたJBpress主催「第1回 金融DXフォーラム」の特別講演Ⅱ「東京海上グループのデジタル戦略 ~次世代に向けた新たな価値提供の実現~」の内容を採録したものです。

損害保険企業には特有のデジタル活用の方向性がある

 私は日本の銀行で金融工学の仕事を10年間担当し、外資系金融機関、投資銀行を経て、直近では世界規模のペイメントテクノロジー企業であるVISA、世界最大級のアセットマネジメント企業ブラックロックで日本の事業責任者を務めました。いずれも世界の金融DXのトップランナーです。その後、3年前に東京海上ホールディングスに転じました。その理由は、損害保険企業には独自の価値創出領域があり、大きな可能性を感じたからです。

 金融業界で業務の中核をなすのは大量取引の迅速・正確な処理です。損害保険企業も何千万件もの契約データ、保険対象の建物や自動車のデータを処理しており、デジタルとの親和性が非常に高いのです。

 一方で、損害保険企業に特有のデジタル活用の方向性があります。それは、保険という機能が、自然災害や事故、故障、疾病といった人知を超えた損失の被害を救済・修復する仕組みだということに起因します。生活様式や経済活動がますます多様化、複雑化する中で、将来生まれる新たな活動を支えるために、保険が活躍する領域は増えていくと考えています。

経営効率を高める内側DXと固有の価値を実現する外側DX

 東京海上は1879年に創業し、海上保険から始まり、鉄道、自動車、さらに50年前にはクレジットカード、20年前にEコマース開始、そしてモバイルと、社会の発展を「保険」という側面から支え、時代とともに成長してきました。現在、弊社は世界40カ国以上で事業展開し、グループの利益の約50%が海外にあります。そのような事業基盤を持つ東京海上のDXの世界観をまとめたものが下の図です。

 保険企業としてのミッションを見据え、人の能力とテクノロジーを組み合わせて人知を超えたリスクに向かう。そして、その活動を世界規模で展開し、グローバルにシナジーを実現する。このようにDXを進めています。

 また、弊社自身の経営効率をデジタルの力で高めていく内側のDXと、保険企業として固有の価値を実現する外側のDXの両輪で追求しています。社会の発展のフロントランナーとしての文化、風土を持った企業の姿を目指し、「東京海上は面白い・使える・進化している」と評価され、デジタルの先進性と躍動感を遺憾なく発揮して社会の発展に貢献する未来を見据えています。