8月4日、東京五輪野球準決勝の日本対韓国戦。2-2で迎えた8回裏、リリーフに立った高佑錫投手は、山田哲人選手に試合を決定づける3点二塁打を許し、思わず肩を落とした(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 8月8日に閉幕した東京オリンピックで、韓国の選手たちは過去にないほどの不振を極めた。メダル目標に達しなかったばかりか、お家芸であるテコンドーでは初めて金メダルなし、「世界最強」のはずの女子ゴルフも振るわず、団体スポーツで期待されていた野球、女子バレーでもメダルは取れなかった。

 原因は何か。おそらく、文在寅政権になってから若者が生活苦から逃れられず、スポーツどころではなくなったことが大きな要因になっている。日本のオリンピック選手はインタビューで一様に「オリンピックを楽しむ」と語っていた。スポーツや文化を楽しむためには精神的、物質的余裕が必要なのだろう。だが、韓国の若者にはその余裕がないのだ。

日本への対抗心を活力源にしてきた韓国

 韓国の若者は精神的、物質的に追い詰められ、未来に希望が持てなくなっている。そして、そうした中でも文在寅政権は、北朝鮮追従、日本批判に血道をあげている。米韓同盟に対しても中国、北朝鮮に配慮するあまり、約束を忠実に履行する姿勢に欠けている。韓国の進むべき道は、米国や日本と協力することで安全保障を確保し、経済成長と活力を取り戻すことではないのか。

 しかし、東京オリンピックに際し、文在寅政権と与党民主党がしたことは竹島や旭日旗、福島原発の処理水などに難癖をつけることであった。オリンピック開会式を機に文在寅氏が訪日し、日本側にごり押ししてきた諸問題について決着させようと画策していたが、これは失敗に終わった。目算を誤ったのは国内政治の意識で日本を見ているからである。

 韓国はこれまで、日本への対抗心を活力源としてきた。それはスポーツにおいても発揮された。そのことは一概に悪いこととは言えない。しかし、今の韓国の対抗心は「過去」を批判することで成り立っているように思われる。これでは互いの建設的な発展には結びつかない。では、韓国が未来志向的な対抗心を持つようになるにはどうしたらよいのか。それは、今の政治姿勢を改める以外にない。そうした前向きな国になった時、韓国のメダル獲得数も再び上昇に転じるであろう。