今年4月には米戦略軍司令官のチャールズ・リチャード海軍大将が、恐らくサイロの件を知ったうえで、中国のプログラムは急速に進んでいるため入手した機密情報が1カ月経たないうちに古くなってしまうと語っていた。

 サイロ建設プロジェクトの発見を受け、大きな疑問が2つ浮上している。

 第1の疑問は、これによって中国の核政策の変化が促されるのか、というものだ。

 米国とロシアはいくつかの兵器を臨戦態勢に置いており、その時期が来たとの知らせが入れば発射できるよう準備が整っている。

 中国はそうしていない。だが、サイロに配備されたICBMは車載移動式のそれよりも短時間で発射できる。車載移動式ではミサイル本体を立てなければならないし、場合によっては燃料も充填しなければならない。

 米国の当局者に言わせれば、中国が短時間で発射準備が整うミサイルを多数蓄え、ロシアの支援を受けながら開発し始めている先進的な早期警戒レーダーが完成すれば、すでに早期警戒用人工衛星が極軌道に乗っていることから、中国は「警報即発射(LOW)」の政策を採用するかもしれない。

 つまり、核攻撃を受ける最初の兆候が見られた時点でミサイル発射の準備ができているようにする、ということだ。

核軍備管理への影響は?

 第2の疑問は、この状況は核軍備管理に影響を及ぼすのか、というものだ。

 米国とロシアの間に1つだけ残っている核軍縮条約、すなわち新戦略兵器削減条約(新START)は今年2月に更新されており、5年後に期限を迎える。

 もしホワイトハウスが、中国の新しいサイロを急速な核軍拡の証拠だと見なせば、今後の核軍備管理条約は中国も加えた3カ国で結ばなければならないというトランプ前政権の見解を採用するかもしれない。

 米国務省は今のところ、サイロの建設は「核のリスクを低減させる現実的な対策を追求することの重要性を高めている」と述べている。

 だが、中国は自らの武器庫を査察させることには消極的だ。

 天津での高官協議が険悪な雰囲気だったことも、このように論争を引き起こしそうなテーマについての交渉が実現しそうにないことを示唆している。ましてや、生産的な結論など望むべくもない。

 皮肉なことに、これらの新たな構築物の最も穏やかな解釈――シェルゲームに用いる、ということ――は、ある意味で、核軍備管理にとっては最も励みにならない解釈だ。

 米国とロシアは、お互いのサイロに査察官を派遣してチェックすることにより新STARTが守られていることを確認している。

 もし中国の計画の狙いが本当にミサイルをシャッフルすることだとするなら、ミサイルの配備状況について外部の人間が確信を得ることはかなり難しくなる。

 オスロ大学のジェームズ・キャメロン氏は次のように話している。

「従って、今回の一件の解釈で最も良いのは、中国は自分たちが軍備管理に関心のないことをある程度裏付けた、というものになる」