松下電器(現パナソニック)を一代で築き上げた松下幸之助(写真:Fujifotos/アフロ)

(朝比奈 一郎:青山社中筆頭代表・CEO)

 日本の経済力が米国や中国と比べて相対的に低下していることの大きな原因は、有力なベンチャー企業がなかなか育たないという点にあります。戦後の日本経済の急成長を牽引した松下電器(現パナソニック)やソニー、本田技研といった企業群も元々はベンチャー企業でした。

 米国経済を見れば、GAFAと呼ばれる巨大IT企業はいずれも急成長したベンチャー企業ですし、中国を見てもアリババ、テンセント、ファーウェイなど若い企業が猛烈な勢いで成長をし、世界を揺るがせています。

 日本にも、「ベンチャーを育てよう、ベンチャーを伸ばそう」という問題意識はずっとありましたし、政府としてもさまざまな育成策を打ってきました。しかし、GAFAやアリババ、テンセントに比肩するようなベンチャーを育てるには至っていません。これは日本の大きな弱点になっており、私はかねてから危機感を持っていました。

 日本にいま必要なのは、日本経済を引っ張っていけるほどの「メガベンチャー」の出現です。そのためには何が必要なのでしょうか。

日本のベンチャー育成に投じられているカネはまだ少ない

 なぜ日本のベンチャーは育っていかないのか――その原因について、これまで数多くの人と議論してきた結果、理由は三つあると思い至るようになりました。

 その一つは、日本のベンチャーにはヒトもカネも集まらないという環境です。最近でこそ、東大を卒業して新卒でベンチャーに参画する若者や、経産省を辞めてベンチャーに行くような人も出てきていますが、こうした例はまだまだ少数です。ところが米国や中国では、優秀な学生や若手ほど自ら起業する道を選んでいます。起業を志す人材の層が日本は圧倒的に薄いのです。