リーマンショック後の「反ウォール街デモ」。学生ローン地獄に苦しむ学生も多数参加した(写真:ロイター/アフロ)

 日本では一億総中流という言葉が過日の幻となって久しいが、世界ではより大きな格差が巨大な壁として立ちはだかっている。しかも、新型コロナウイルスのパンデミックにより、富裕層への富の集中はますます加速すると同時に、先進国では深刻な「相対的貧困」が進んでいる。

 貧困は人の心や頭から余裕や教育を奪い、個人だけではなく社会の発展にもマイナスの影響を及ぼす。しかし、中には厳しい経済状況に置かれても、その逆境をバネに夢や成功を掴む人がいる。貧困家庭からハーバード大学というエリートコースへ進むも、海外でお笑い芸人を目指すという波乱の人生を生きてきたパトリック・ハーランさん(パックン)もその一人だ。

 米国と日本の貧困問題、自身の経験から得た喜びを感じる力、日本の教育や社会システムをどう見ているのか──。『逆境力 貧乏でコンプレックスの塊だった僕が、あきらめずに前に進めた理由』(SB新書)を上梓したパックンに話を聞いた。(聞き手 陳 辰 シード・プランニング研究員)

※記事の最後にパトリック・ハーラン氏のインタビュー動画があります。是非ご覧ください。

実態が見えにくい日本の貧困

──本書の中で、日本では貧困問題に対する意識が低いというお話がありました。日本と米国の貧困に対する意識の違いについて教えてください。

パトリック・ハーラン氏(以下、ハーラン):日本と米国の貧困問題の最も大きな違いは、それが見えやすいか、見えにくいかだと思います。

 米国には日本より大きな貧富の格差や深刻な貧困問題がありますし、実際にそれが見えやすい。貧困層が集中して住む地域があって、学校や一定の職業については差別に近い発言もよく聞きます。それでもNPOやNGOは盛んに活動していて、ボランティアや貧困対策の政策の必要性も認識されている。貧困や格差がはっきりと目に見えるからこそ、問題意識は高い。

 一方の日本では、住んでいる場所や仕事・職業によってそこまで極端な差はありません。日本には高度経済成長期に確立した「一億総中流」という神話がまだ根強く生きていますし、国民皆保険や行き届いた義務教育によって人々の生活が支えられています。

 しかし実は、セーフティネットから抜け落ちている方も少なくありません。日本の子供の相対的貧困率は14.0%で、全子供人口の約7人に1人が貧困状態にあります。これは先進国の中でもワースト3に入る高い水準なのですが、このことはほとんど認識されていません。

──日本では、派遣社員など非正規雇用の労働環境の不安定さや賃金の低さが問題視されています。

ハーラン:日本の非正規雇用は、夫婦共働きのどちらか一方が正社員で、もう一方が非正規社員という形が非常に多い。いまだに夫婦で一つの家庭を支えるという固定概念が強くて、ひとり親家庭という前提はあまり認識されていない。問題はここなんですよね。ひとり親家庭でパートなどの非正規社員であれば、ほぼ100%が貧困やそれに近い経済的に苦しい状況に置かれています。

──ひとり親家庭を十分に意識した対応が日本ではされていないことが問題だということでしょうか。