慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授 岩本 隆氏

 コロナ禍でワークスタイル変革を後押しされた企業もあるが、リモートワークの導入や、働きやすい環境の整備にとどまり、生産性の向上やイノベーション創出の促進が伴わないケースも多い。真のワークスタイル変革の実現に向けて、経営トップやマネジメント層は何を考え、行動すべきか。慶應義塾大学大学院経営管理研究科 特任教授の岩本隆氏に聞いた。

日本の企業は間接部門のDXが遅れている

 企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)は大きく2つに分けられる。1つは事業部門のDX。もう1つは間接部門のDXだ。

「ものづくりを中心とした日本企業では、事業部門のデータ活用は昔から進んでいました。DXといわれるずっと前から、生産、物流、販売の各プロセスでデータ活用による効率化が進められてきました」。こう切り出したのは、慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授の岩本隆氏。

 問題は間接部門のDXだ。「自社のワークプレイスに対してサポートを提供するのが、人事、総務、経理といった間接部門の主な仕事ですが、ここのDXが非常に遅れています」と岩本氏は指摘する。岩本氏が企業と共同で行ったグローバル調査によると、日本の「職場におけるAI活用」はここ数年、いずれも最下位で、「間接部門でAIを活用するという意識が海外に比べて低い」という。

 さらに昨年(2020年)の調査で、新型コロナウイルスの感染拡大が生産性にどのような影響を与えたのかを調査したところ、多くの国では移動時間が減った分、労働時間が増えて、生産性が上がり、企業業績も伸びたが、日本と韓国だけが労働時間が減り、生産性も下がった。日本は韓国よりも数字が悪く、生産性も最下位に沈む。

「もともとワークプレイスのデジタル活用が遅れていて、生産性が低い中でコロナがやって来て、さらに生産性が下がったというのが2020年夏の状況です。それから1年が経過し、改善は進んだと思われますが、グローバルな比較ではまだまだ周回遅れの印象です」(岩本氏)

 コロナ禍でDXが加速。期せずしてリモートワークの導入を強いられたことで、日本のワークスタイル変革は大きく前進したと見る向きもあるが、そうとも言い切れない。「個々の自律性が高ければ、欧米や中国、インドの企業のようにリモートワークでも機能すると思うのですが、日本企業の従業員は相対的に自律性が低い。ジョブ型雇用が注目を集めましたが、日本ではジョブディスクリプション(職務記述書)に落とし込まれていないため、それがリモートワークになった途端に機能しなくなりました」と岩本氏は説明する。

 前述の調査では、日本はリモートワークになって労働時間が減るという奇妙な結果となったが、自律性に乏しいが故に、自分が何をすべきか分からず、とりあえずパソコンの前に座ってはいるが、ぼーっとしてしまう・・・。そんな若手社員も少なくないようだ。

 また、リモートワークの導入はミーティングの効率を高める一方で、直属ではない上司との会話や、「たばこ部屋」などでの雑談の機会を奪うこととなり、イノベーションの観点からはマイナス要因になったと岩本氏は言う。