トレードマークのキドニーグリルが大型化した「BMW iX」。実はキドニーグリルの目立たない部分に自動運転や安全技術をサポートするカメラテクノロジー、レーダー機能、最先端センサーなどが組み込まれている(筆者撮影)

(朝岡 崇史:ディライトデザイン代表取締役、法政大学大学院 客員教授)

 2021年7月上旬、東京はお台場にある「BMW GROUP Tokyo Bay」。年内に日本でも発売となるBMWの電気自動車(EV)「BMW iX」のプレビューイベントが開催されるということで、事前に申し込みの上、地下鉄とゆりかもめを乗り継いで現場へ出向いた。

 BMWといえば、1972年からブランドスローガンとして採用されている「Sheer Driving Pleasure(駆けぬけるよろこび)」に象徴されるように、プレミアムカーの中でも特に「爽快な走り」を売りとする自動車メーカーだ。そして、その卓越した走りは「シルキーシックス」と呼ばれた直列6気筒のガソリンエンジン、FRの駆動系レイアウト、前後車輪重量配分50:50という理想的なテクノロジーへのこだわりによって支えられてきた。

 しかしサステナビリティが大きな社会課題になっている現在、化石燃料の燃焼だけでなく、生産過程でも大量のCO2を排出する自動車メーカーに対する風当たりは相当に強い。欧州連合(EU)は2035年にハイブリッド車を含むガソリンエンジン車・ディーゼルエンジン車の販売を事実上禁止する動きを見せている。

 今年(2021年)1月にバーチャルで開催されたCES 2021の基調講演に登壇したゼネラルモーターズ(GM)のメアリー・バーラ会長兼CEO は2025年までに30車種のEVを投入し、その3分の2を北米で販売すると宣言した(超マッチョなSUVとして人気が高いハマーもEV化され2021年秋に登場する)。EVの開発は自動車会社各社にとって喫緊の経営課題なのであり、2021年は世界レベルでの「本格的な電動化元年」と言える。

(参考)EVへの「なりわい」革新を鮮明にしたGM(「JDIR」2021年1月21日)

 BMWグループもこの流れには敏感だ。今後10年で約1000万台のEVを販売する計画という。2030年には全世界でのBMW販売台数の50%以上がフルEVになると見込んでいる。

 2021年末までに投入されるEVは上海モーターショー(2021年4月)でお披露目され今回日本初上陸のDセグメントのSAV(注1)「iX」、間もなく登場するBMW初の完全電動グランクーペ「i4」、取り回しの良さで人気のSAV「X3」の電動モデル「iX3」、そしてBMWグループ傘下のMINIクーパーSEの4つのモデルである。加えて2013年にBMW初のEVとして「i8」とともにデビューした「i3」も引き続き販売が継続される。BMWは「グループとしてEVシフトを加速させるために、MINIを完全電気自動車ブランドにする」と2021年3月に発表している。

(注1)BMWはSUV(スポーツ多目的ビークル)をSAV(スポーツ・アクティビティ・ビークル)とSAC(スポーツ・アクティビティ・クーペ)の2種類に分けて定義している。