(塚田俊三:立命館アジア太平洋大学客員教授)

 6月18日、“経済財政運用と改革の基本方針(骨太の方針)”が閣議決定された。急激に変わりつつある内外情勢に対応して、グリーン成長、デジタル・トランスフォーメーション、分散型国づくり、サイバー・セキュリティ、安全保障、感染症対策等の優先課題を取り上げ、その促進に果敢に取り組むとした本年度の基本方針は大いに評価しうる。

謳ってはいるが一向に見えてこない財政健全化の道筋

 その一方、経済・財政の一体改革にも言及しているのだが、これは「建前上これに触れないわけにいかないので言及しているだけ」の感を拭えず、その具体的道筋は見えてこない。

「骨太」では、財政健全化は引き続き追求するとして、“2025年までにプラマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化を達成するとの従来方針は堅持する”と謳っているのだが、それははたから見ても、コロナの影響もあり、どう考えても無理な注文だろう。1月に政府が自ら示した試算でもプラマリーバランスの黒字化は、2029年でなければ達成できない、としていたことからも明かであろう。菅政権もこの点は重々承知してはいるが、かといって、ここでさらに、プラマリーバランスはもはや追求しないとまで言い切ってしまうと、「『財政の健全化』という大原則を放棄したのか」と批判される恐れがあるので、そこまでは踏み込めなかったというのが実情であろう。

プライマリーバランス目標を「骨太」から外した安倍政権

 そもそも、プライマリーバランスという指標は、財務省が希求する収支均衡と与党内の積極財政派との間のバランスを採るために、生み出された方策だ。

 それは多額の累積赤字を抱えるわが国において、財務省が望むような収支均衡を追求すれば経済の収縮を意味するし、他方、主に与党内の積極財政派が言うように、政府支出の大幅増に踏み切れば、債務の雪だるま的膨張を招くことになるので、そのどちらにも陥ることがないようにするために編み出された妙案だった。