通常の点滴はパックだが、北朝鮮では洗浄したビール瓶を用いた(写真:Science Photo Library/アフロ)

◎第1話「『地上の楽園』北朝鮮に渡った在日朝鮮人が語る辛苦」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64819)
◎第2話「脱北した在日朝鮮人医師が体験した脱出劇のリアル」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65006)
◎第3話「ミャンマーで投獄された脱北者の私が自由を取り戻すまで」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65372)
◎第4話「脱北医師が亡命して驚いた、共産主義を礼賛する韓国左派の無邪気」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65688)
◎第5話「脱北医師が暴く、北朝鮮が世界に喧伝する「無償治療」の真実」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65813)

「北朝鮮ではビール瓶で点滴注射している」

 そんな衝撃的な記事が2015年03月、ソウル新聞に掲載された。常識では理解できない報道に人々が仰天したのは言うまでもない。輸血、水液、手術、施術など医療全般においては滅菌が最優先で、ビール瓶から血管に点滴するなど、専門家はもちろん一般人にもにわかには信じ難いだろう。

 1997年、国際NGO「国境なき医師団」のエリック・ゲメレ事務総長が1週間にわたり北朝鮮を視察した際に、「薬草を除くと、アスピリンや麻酔薬などの基礎医薬品さえなく、北朝鮮の医療体制は崩壊した状態」「点滴液も水と砂糖を混ぜたもの」と述べたことがある。

 この2つの話を合わせれば、砂糖を溶かした水をビール瓶に入れ、注射針をつないで点滴しているように聞こえるに違いない。実際、その通りである。私もその現場にいた。ただ、より正確に言えば、砂糖をただ水に溶かすだけでなく、栄養として使える「添加糖」に加工して使っていた。

 北朝鮮の病院の病類別統計によると、冬は呼吸器病が蔓延し、夏は消化器病が蔓延する。90年代初めの「苦難の行軍」では、全国民が貧困と虚弱に喘いだ。栄養不足が呼吸器病や消化器病を誘発する中、治療においては栄養状態の改善が何より重要だった。

 点滴などの栄養療法と薬物治療を併用しないと瞬く間に死に至る。前回記事「脱北医師が暴く、北朝鮮が世界に喧伝する「無償治療」の真実」で書いた通り、北朝鮮の医師は抗生剤や治療薬を市場で買うように患者に指示を出す。だが、点滴液や食塩水、ブドウ糖は市場では購入できない。点滴容器は割れやすくかさ張るので、行商人による北朝鮮の市場では流通が難しい。商人が市場で売る薬ではないのだ。