武漢ウイルス研究所(写真:AP/アフロ)

(ジャーナリスト 吉村 剛史)

 米大手紙が6月7日付電子版で報じたニュースに、冷や汗を流した識者もいたことだろう。米国立研究所が2020年5月、新型コロナウイルスが中国・武漢ウイルス研究所から流出したという仮説について、妥当であり、追加調査を行う価値がある、とする報告書をまとめていたというのだから。

 この可能性に関し、毒物研究の世界的権威の見解に依拠し、JBpressで最も早期に報じたのが筆者だった。

 日本では武漢での感染拡大がまだ対岸の火事のように感じられていた2020年2月1日のこと。一部ジャーナリストの後追い報道はあったが、それに対し「トンデモ」説と決めつける識者もいた。だが、上記米大手紙の報道に先立ち、米フェイスブックも「新型コロナウイルスが人工的に作られた」との主張について、今後は自社プラットフォームから削除しない方針を明らかにしている。

米国立研究所インテリジェンス部門が分析

 新型ウイルスが人工物である可能性、また武漢市にある中国科学院武漢ウイルス研究所から漏出した可能性を早期に指摘したのは台湾出身で米国在住の化学者、杜祖健(英語名アンソニー・トゥー)氏だ。杜氏と10年以上の交流がある筆者は、近著『アジア血風録』(MdN新書)においても、杜氏のこの見解についての詳報をまとめた。

 新型コロナウイルスの起源をめぐり、武漢ウイルス研究所から流出したという説には説得力があり、さらなる調査が必要だと結論づける機密指定の報告書をまとめていたのは米カリフォルニア州のローレンス・リバモア国立研究所。米紙ウォールストリート・ジャーナルが2021年6月7日、複数の関係者の話として報じた。

 報告書は同研究所内の情報収集・分析部門が担当し、新型コロナの全遺伝情報(ゲノム)解析を基に分析。2020年5月27日付でまとめられていた。報告書は同年10月下旬に国務省に伝達。これによってトランプ前政権が新型コロナの起源をめぐる調査を行ったという。