(英フィナンシャル・タイムズ紙 2021年5月27日付)

英国における新型コロナウイルス感染症のパンデミックには、これまでに計12万7000人が死亡したという厳然たる事実が存在する。
犠牲者のなかには、ドミニク・カミングス氏の評判を慮る人などいないし、5月26日に英議会で展開された見苦しい復讐劇を気にする人もいない。
厳然たる事実は新型コロナの犠牲者数だけではない。
イングランドとウェールズの介護施設で死亡した人は3万1000人を超え、入院中に感染して死亡した人は8700人を数える。「ロング・コビッド」と呼ばれる後遺症を抱える人は100万人にのぼる。
猛烈な政権批判を繰り出したカミングス氏
ボリス・ジョンソン首相から袖にされ、復讐心を抱いているドミニク・カミングス元上級顧問が26日、パンデミックへの対応を調査する英議会下院の委員会に出席したことは、ウェストミンスター界隈で「Domaggedon(ドミニクとアルマゲドンをかけた造語)」と呼ばれている。
この出来事は2つの観点から眺めることができる。
まず、カミングス氏が見下すふりをしつつも実はそこでの称賛を切望しているように見える政界という隔離された空間では、同氏の発言がジョンソン首相にどんな打撃を与えそうかという観点から注目された。
この目的については、ジョンソン氏が敵に恵まれている。
カミングス氏は昨年4月、ロックダウン(都市封鎖)で外出が厳しく禁じられていたにもかかわらずイングランド北部のバーナード城を気晴らしに訪れたことから、国民からはほとんど信用されていない。
また恨み――特に、首相の婚約者に対する恨み――を晴らすという無用な行為に及んだことにより、説得力も損なってしまった。
正しいことを言っても、そもそも信用されない。