グローバル企業の時価総額トップ50にはわずかにトヨタ自動車がランクインするのみ(写真:つのだよしお/アフロ)

(羽生田慶介:オウルズコンサルティンググループCEO)

 コロナ対応につまずく今の日本を見て、日本という国の劣化を感じる向きも少なくないのではないか。

 事実、1回でもワクチンを接種した人の割合は4.37%(5月24日時点)と先進国の中でも断トツの最下位。ワクチン調達に奔走したことで国内対象者分は9月末までに確保したが、先行するイスラエルや米国、英国に比べ後手に回った感は否めない。相次ぐ緊急事態宣言とまん延防止等重点措置、その中でも五輪開催に十分な議論がなされない状態を第二次大戦中の日本軍に重ねる声も出る。

 政治の劣化は以前から叫ばれていたものの、それをカバーしてきた官僚機構も、官邸主導に伴う忖度と無意味な長時間労働で疲弊している。コロナ対応を巡るドタバタは、そんな日本の劣化の象徴だろう。

 そして、日本を支えていたはずの企業も、いつの間にか世界で存在感を失っている。

 1989(平成元)年のグローバル企業の時価総額トップ50社を見ると、トップのNTTを筆頭に32社の日本企業が名を連ねていた。トップ10社に限れば7社が日本企業である。それが、2019(平成31)年にはトヨタ自動車が43位にランクインするのみだ。時価総額と企業の価値はイコールではないが、インターネットが世界を変えた平成の30年間で、日本企業が完敗を喫したという見方に異論はないのではないか。

 それでも、日本企業は株主のプレッシャーもあり、利益は出してきた。リーマンショック後の2009年に約28兆円だった国内全産業の営業利益はコロナ前の2019年には約55兆円に達した(統計データ上、金融保険業は含まない)。純利益に至っては、9兆円から45兆円と5倍の伸びである。

「利益が出ていればいいではないか」という意見もあるだろうが、同期間の売上高は2009年の1368兆円から2019年の1482兆円とほぼ横ばいである。これが意味しているのは、売り上げの拡大の伴う利益成長ではなく、コストダウンや投資の削減など、組織や生産システム、サプライチェーンを“筋肉質”にすることで利益を捻出したということだ。

 もちろん、トヨタ生産方式に代表されるように、サプライチェーンの無駄を省き、生産プロセスを最適化するのは企業の振る舞いとして正しい。ただ、「過ぎたるは及ばざるがごとし」という言葉があるように、利益を出すために投資や在庫、人材教育など企業の持続的成長に必要な部分までそぎ落として利益を捻出したのでは本末転倒だ。

 そして、今の日本の企業は、極限までに肉体美を作りあげたボディビルダーに近いと感じている。