オランダ・ロッテルダムの風力発電(写真:中尾由里子/アフロ)

(大久保明日奈:オウルズコンサルティンググループ プリンシパル)

・1回目「COP26に向けて加速する『脱炭素覇権』を巡る米欧中の暗闘〜地政学としての気候変動(1)気候変動サミットで交錯した思惑」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65150)から読む

 今、気候変動対策で世界をリードしているのは、米国でも中国でもなく、欧州である。4月に開催されたバイデン大統領主催の気候変動サミットの前日、14時間の協議を経て、欧州委員会は「2050年のカーボンニュートラル化」の目標を法制化した。

 米中を始めとする大国は、NDC(各国の温室効果ガス削減への貢献目標)を国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局に提出するにとどまるが、法制化までしたのは欧州が初めてだ。また、「2030年までに1990年比55%削減」の目標を積み増し、「2030年までに57%削減」とすることにも合意した。欧州連合(EU)の盟主ドイツも5月5日に、2030年目標を1990年比55%から65%へ大幅に引き上げている。

 片や、米国は気候変動対策に否定的だったトランプ政権を経て、ようやくパリ協定に復活したばかり。2030年目標はサミット直前に駆け込みで引き上げられたものだ。2兆ドル(約220兆円)規模のインフラ整備計画も公表するが、具体的な政策への落とし込みはこれから始まる。

 もう一つの大国、中国はあくまでも「途上国である」とのスタンスを貫いている。昨年、2030年の温室効果ガス排出量ピークアウトと2060年のカーボンニュートラルを宣言したが、世界2位の経済大国であるにも関わらず、脱炭素化の目標期限は欧州、米国から10年遅れる。

 このように、欧州と米中の気候変動対策への姿勢が根本的に異なるのは明らかだ。実際に、気候変動対策パッケージ「欧州グリーンディール」は、具体性と網羅性の観点で両国を圧倒する。

 2019年から始まる「欧州グリーンディール」は、気候変動対策と経済成長の二兎を追う、現フォン・デア・ライエン政権の一丁目一番地の政策だ。7つの政策分野とグリーンディール推進のための仕組みで成り立つ(図1参照)。

 2019年12月に「欧州グリーンディール行動計画」が発表され、環境を起点とした包括的な成長戦略がつくられた。全体目標を定める「欧州気候法」、グリーンビジネスの分類と投資対象の明確化を図る「EUタクソノミー」、「水素戦略」や「サーキュラーエコノミー行動計画」に代表される個別分野の具体的政策で構成される。グリーンな産業の台頭によって衰退する産業へのセーフティネット「公正な移行メカニズム」も用意する入念さだ。

 このように脱炭素化を目指す本気度は理解できるが、そもそも欧州はなぜここまでグリーン成長に傾注するのか。その背景には米中の影が見え隠れする。