(英フィナンシャル・タイムズ紙 2021年5月19日付)

インフレ圧力が高まっている。懸念には及ばないかもしれないがドル暴落に備えておいても悪くはない

 5月12日に発表された米国の消費者物価上昇率(前年比)が4.2%に跳ね上がったことはショックだった。しかし、これはパニックになるほどのことだろうか。

 もちろんだ、とは言い切れない。この物価上昇は特殊要因で説明できるからだ。常にそうだった。インフレ率が上昇し始める時には必ず、特殊要因で説明することができた。

 だが本当のことを言えば、懸念を抱く重大な理由は目の前で起こっていることではなく、むしろ今働いている政治的な作用だ。

前例のない景気後退からの回復

 当然ながら、政治の選択を形作るのは経済の流れだ。そして、こうした経済的な作用は現在、いくぶん分かりにくくなっている。

 消費者物価指数の予想外に大きな上昇の前には、予想外に弱い雇用統計の発表があった。

 4月の非農業部門の就業者数は前月比で26万6000人増の小幅な増加にとどまり、失業率も若干上昇して6.1%になった。

 その説明として明らかに言えるのは、これは需要の落ち込みではなく供給の停止が原動力だった過去に例のない景気後退からの回復だということだ。

 米ゴールドマン・サックスは、消費者物価の上昇をもたらした直近の原因は、かなり落ち込んでいたレベルから価格が反発している旅行および旅行関連サービスと、パンデミック後の需要急増で一時的な供給不足やボトルネックが生じた一部の財にあると指摘している。

 米ピーターソン国際経済研究所のジェイソン・ファーマン氏も、2021年2月の新規求人倍率が2001年以降のどの月よりも高かったにもかかわらず、4月の就業者数はパンデミック前のトレンドをまだ1000万人下回っていると指摘している。

 このことも、パンデミック後の混乱が労働供給にまだ残ることを示唆している。前例のないショックだけに、データの解釈や今後の予測が難しくなるのは避けられない。

 この不確実性はコモディティー(商品)価格にも当てはまる。

 価格はすでに急騰してきた。だが、過去の基準に照らせば水準自体はまだそれほど高くないし、過去のピークに比べればかなり低い。