*写真はイメージ

「咳をしても一人」。俳人・尾崎放哉は病を抱えた孤独な晩年に、この句を残した。なぜ、おひとりさまで病気を抱えた時、この句にあるような寂寥を感じてしまうのだろうか。不自由なことを助けてくれる人がいないからだろうか。病院から家に帰っても、誰も待っていないからだろうか。

 がんに罹患したことを終末期まで誰にも言わなかった54歳のミエコさんは独身で、同居する母は要介護の状態であり、頼る人が身近にいなかった。さらに彼女は最初にがんがわかった頃から友人との交流を断ち、どんどん「おひとりさま」を深めた患者になっていった。つらく寂しい状況だったろうと想像するが、他人事ではないと筆者は思う。

 大阪大学人間科学研究科博士課程に社会人学生として在籍する浅井美穂氏は、看護師であり慢性疾患の当事者でもある。「おひとりさま患者」として大病の経験をしたことから、壮年期に“ひとり”(単身、独身、ひとり暮らし、シングルマザー、シングルファザーなど)で闘病する人にインタビューを行い、その語りを「現象学」を用いて明らかにすることを目的とした調査を行っている。浅井氏と共に「おひとりさま患者」の孤独を考えてみた。(聞き手・構成:坂元希美)

参考【第1回】:母親を介護中の50代独身女性が末期がんに、頼られた親戚の苦悩 https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65360

「ひとりでやらなきゃ・できなきゃ」と思う患者

――日本では単独世帯が2015年の段階で34.5%、2040年には40%に迫ると言われ、「おひとりさま」は増加していきます。私も浅井さんも「おひとりさま」ですが、病気を抱えながら、ある程度は問題なく生きていける状況ですよね。

浅井美穂(以下、浅井) 地域によっては難しいところもあるでしょうが、便利な都会に暮らしていれば、独身でも衣食住はだいたい何とかなりますね。職場や趣味などで人との繋がりも作れます。「孤独」であっても「孤立」しないでおこうとすることは可能ですね。

――でも、誰かと話したいなあ、会いたいなと思ったときに連絡を取れる相手というのは、だんだん少なくなっていきます。相手に家庭があればその都合はどうか、仕事や育児が忙しいと言っていた、介護が始まって大変なんだという話などを聞いていると、「おひとりさま」の自分はすごく贅沢な身分であるように感じます。

浅井 それに加えて、なにか社会の中で「自分で選んだ人生なのだから、その引き換えとして自分のことは自分でしないといけない」というコンプレックスのようなものもありますね。そのコンプレックスを跳ね返すために、なんでも「ひとりでやらなきゃ・できなきゃ」という張り詰めた気持ちがあります。

2015年まで総務省統計局「国勢調査」2020年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)2018(平成30)年推計」(2018)http://www.ipss.go.jp/pp-ajsetai/j/HPRJ2018/hprj2018_gaiyo_20180117.pdf