1948年、チェコスロバキアの通信社でモールス信号によって送信されてきたニュースを受信する従業員(写真:CTK Photobank/アフロ)

 中国・春秋時代の兵法書『孫子』の中に「彼を知り己を知れば百戦殆からず」という有名な一説があります。

 この格言にもあるように、あらゆる勝負事で勝とうと思うのなら、味方の戦力を把握し、その上で相手の戦力について正確な情報を素早く入手することが必須になります。特に、相手がどのようの行動に出るのかが事前にわかれば、勝利はぐっと近づきます。

 18世紀末から19世紀初頭にヨーロッパじゅうで戦争をし、次々と勝利を収めていったナポレオンも、その栄光の陰には独自の情報網のネットワークがあったのです。それを支えた技術が「腕木通信」です。

手旗信号の原理で脅威の通信網

 腕木通信とは、1793年、フランスの発明家クロード・シャップによって考案された通信手段です。

 原理的には手旗信号と同じものです。あらかじめ一定間隔ごと(10~15キロ程度)に有人の通信塔を設置します。そして通信塔の屋根に建てた可動式の三本の大きな棒を自在に操り、その棒が作る形によって通信内容を表します。その通信情報は遠く離れた次の通信塔で待機していた係員が望遠鏡を使って読み取ります。そして同じ内容を、やはり棒を操作して表すのです。同じことが次から次へと行われる、いわばバケツリレー式のシステムです。通信塔をどんどん設置すれば、そのぶんだけ情報通信の距離を延長することができます。フランスでは最盛期にこの通信網の総延長距離は4000キロとも5000キロだったとも言われています。

ドイツに現存するシャップの腕木通信塔(ドイツ語版ウィキペディアのLokilechさん, CC BY-SA 3.0 , ウィキメディア・コモンズ経由で)