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(髙山 亜紀:映画ライター)

 コロナで例年より2カ月遅れで行われた先日のアカデミー賞授賞式。いつもはハリウッドスターたちで大賑わいとなるドルビーシアターは静まり返り、代わりにメインとなった換気のよいユニオン・ステーションには限られた人が集った。ロンドン、パリ、プラハ、ローマ、シドニーからリモートで出演する参加者もいて、異例尽くしの式だったと言える。

 それでも主要部門は予想通りの結果だった。作品賞、監督賞、主演女優賞は『ノマドランド』、助演女優賞は『ミナリ』と順当。ただ、これまでのアカデミー賞なら、フィナーレに作品賞が発表され、作品に関わった多くのスタッフとキャストが壇上に集結し、大団円を迎えるのがお決まりなのだが、今回はなぜか主演男優賞が最後に発表された。

83歳にして二度目のオスカー、名優A・ホプキンス

 その主演男優賞が物議を醸した。前哨戦通りなら、昨年、大腸がんで43歳の若さで亡くなったブラックパンサー役で知られるチャドウィック・ボーズマンが遺作『マ・レイニーのブラックボトム』(Netflixで配信中)で受賞するはずだった。ところが、大方の予想に反して、賞に輝いたのは『ファーザー』のアンソニー・ホプキンス。しかもアンソニーは式には出席しておらず、視聴者が「えっ?」と思った瞬間に中継はお開きとなった。

 多くの人の頭によぎったのは2017年のハプニング。受賞したのは『ムーンライト』であったにもかかわらず、プレゼンターが間違って、『ラ・ラ・ランド』と発表、大騒動になった。白人中心のミュージカル『ラ・ラ・ランド』VS同性愛者である黒人男性のドラマ『ムーンライト』。前年に「白すぎるオスカー」が問題になったばかりのタイミング。今回も読み間違い? いや、「白すぎるオスカー」再び? チャドウィックが黒人だから受賞できなかったのではと批判する人まで出てきた。

 当の本人であるアンソニー・ホプキンスはそんな騒ぎはつゆ知らず。イギリス時間の午前4時頃にあたる発表の時間には故郷のウェールズで、熟睡中だったそう。史上最高齢83歳にして二度目のオスカーを手にしたサー・アンソニー(一度目は『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクター博士役で)。起床後、Instagramに受賞を感謝するスピーチとともにチャドウィックの早すぎる死を悼んだ。