(英フィナンシャル・タイムズ紙 2021年5月6日付)

粉ミルクをもっと売りたいがために不公正な取引に目をつぶることは得策とは言えない

 1973年にスウェーデンの首都で起きた悪名高い強盗事件にちなんで名付けられた「ストックホルム症候群」とは、誘拐の被害者や人質が自分をさらった犯人に信頼感や愛着、共感を抱くようになっていく現象のことだ。

 中国共産党と付き合う際、これが多くの企業と一部政府を苦しめる病となっている。

 筆者は最近、香港を拠点とする国際的な企業経営者のグループに招待され、香港における民主主義と言論の自由の残骸を叩き潰す中国政府の動きについて討論した。

 民主的な社会から来ているこうした経営幹部数人は、自分たちの最大の敵は自由なメディアだと思うと語った。

 彼らにしてみると、問題は、かつて世界で最もダイナミックな金融センターの一つに数えられた香港における権利と自由の浸食ではなかった。

 問題は、図々しくもこうした展開について報道し、それによって香港への投資を打ち切るよう本社を説得した迷惑なジャーナリストたちだというのだ。

中国で人質に取られた現地ビジネス

 成功を収め、利益を稼ぎ出している中国国内の事業を「人質」と描写するのは、奇妙に聞こえるかもしれない。

 だが、日々の業務活動において、こうした企業の多くは知的財産の窃盗や予測不能で略奪的な政策立案、秘密警察による踏み込んだ監視、いわゆる「出国禁止」の脅しに見舞われ、ごく普通の商事紛争から従業員が逮捕される恐れさえある。

 中国政府は政治的な侮辱と見なすもの――マーケティングキャンペーンでのダライ・ラマの言葉の引用から強制労働によって収穫されたとされる綿花のボイコットまで、その範囲は幅広い――に対して幾多の企業や国を罰してきたため、中国で事業を営む多くの国際企業は実際に人質のように感じている。

 だが、自分たちを捕えている犯人を敵に回したとについて、自国の政治家やメディア、人権団体を責める傾向がある。