サプライサイドとリスクテイクの変化

 パンデミック後の景気拡大から得られる2つ目の重要な教訓は、経済の「サプライサイド(供給側)」、すなわち財やサービスが作られる方法や場所に関係している。

 総じて言えば、人々はパンデミックが終わった後も羽目を外すことにはあまり乗り気でないようだが、新しいやり方で一稼ぎしてみようと考える人もなかにはいるかもしれない。

 歴史学者らによれば、欧州の人々は黒死病のせいで冒険心が強まったという。

 あまりにも多くの人が自宅で亡くなった時期だけに、船に乗り込んで新しい土地を目指すことのリスクはさほど大きくないように思われた、というのだ。

 エール大学のニコラス・クリスタキス氏の近著『Apollo‘s Arrow(邦訳:疫病と人類知)』には、スペイン風邪のパンデミックが「リスクを取る行為の増加」に取って代わられたことが示されている。

 確かに、全米経済研究所(NBER)から1948年に発表された論文には、1919年から起業件数が急激に増えたとある。

 今日でも、起業家は市場のギャップを埋めたがっており、富める国々では新たな企業の立ち上げが再び急増している。

 これとは異なるサプライサイドの変化とパンデミックとの間につながりを見いだすエコノミストもいる。「省力化技術の利用」という変化がそれだ。

 企業経営者は病気の拡大を抑制したがるかもしれず、ロボットならそもそも病気にならない。

 国際通貨基金(IMF)の研究員らが執筆したある論文によると、近年の感染症の流行――エボラ出血熱や重症急性呼吸器症候群(SARS)など――を多数観察したところ、「パンデミックはロボットの導入を加速する。健康に及ぼす打撃が深刻で、かつ大幅な景気の下降と結びつけて考えられる場合は特にそうなる」ことが分かったという。

 確かに米国の1920年代は自動化が急速に進んだ時代でもあった。

 とりわけその対象になったのは、1900年代初めの若い女性の間で最も一般的な職業の一つだった電話交換手だ。

 黒死病とヨハネス・グーテンベルクの活版印刷とのつながりを指摘する向きもある。